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片道


「後5分で自習時間が始まるが」

昼食を終えて部屋に戻って来たところで元秋から電話があった。
慎一はもう出たのか、未鷺は部屋に一人だ。

『それなら手短に言うから良く聞けよ。羽藤と俺は今は何の関係もない』
「……そのようなことをいちいち俺に言わなくて良い」

未鷺は平淡な口調で続ける。

「お前の告白に対して俺はまだ答えていない。その間にお前の心が変わろうが俺にとやかく言う権利はないだろう」
『何でそうなるんだよ。俺はお前が好きだっつってんだろ。羽藤を好きだったことは一度もねえよ』
「羽藤は変わっているが面白い性格をしている」
『羽藤のことはどうでもいいんだよ馬鹿』

馬鹿とは何だ、とむっとしながら未鷺は携帯を握り直した。

「お前が誰かと親密になるのに俺に遠慮する必要はない。三嶋とも堂々と話せば良い」
『ああ、お前今朝のことで嫉妬してんのか?俺が三嶋連れて離れたから』

元秋が電話の向こうでにやけているのが想像出来て、未鷺は眉間に皺を寄せた。
今朝、朝食前に廊下で偶然会ったときに元秋は未鷺に見向きもせず或人とどこかへ行ってしまった。
それで慎一と野原と共に残されたことも不快だったが、元秋の行動も確かに気に入らなかった。
しかしその感情を嫉妬と呼ばれるのも不愉快だ。

「俺は嫉妬などしていない」
『はいはいわかりましたよ』
「何だその言い方は」

未鷺が苛立ったのがわかったのか、元秋は『悪い悪い』と楽しそうに謝った。

『とにかく俺はお前に会ってからずっとお前と付き合いたいって思ってんだよ!変な勘違いしてるんじゃねえぞ』
「鬼原、俺は――」
『返事は直接会ったときにしろよ』

未鷺は元秋には見えないことがわかっていながら頷いた。
自分が勘違いしているとは思っていないが。

『あとお前、変な電話かメールなかったか?』

元秋に尋ねられて、今朝見た知らないアドレスからのメールを思い出す。

「あったが、何故知ってるんだ」
『あったのか……。じゃあちょっと携帯貸せよ。今日か明日まで』
「質問に答えろ。それに携帯がないと風紀委員の連絡が取れない」
『お前には俺の携帯貸すから、メールは転送する。見られてまずいようなもんはねえだろ。休憩のとき交換すんぞ、いいな』

未鷺は元秋が質問に答えず一方的に言ってくることに苛立ちを覚えたが、もう自習時間まで二分を切った。
移動しなければならない。

『わかったな、また後で』

元秋は未鷺の気持ちを察したように言うと電話を切った。

彼が未鷺のために何かするつもりだというのはわかった。
しかし、未鷺は元秋に何も与えられていないのに、と思う。

小さく息を吐いて、微かに頭痛を感じながら未鷺は部屋を出た。

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あきゅろす。
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