1 ウルサイ。 理科室の扉を開けた瞬間に寝不足の頭に響くでっかい声。 また、針谷だ。 最近のあいつはおかしい。いや元々おかしいけど。 カラッカラの頭でケラケラ笑ってズカズカ近付いてきたと思ったら机で不貞寝。 気怠そうに顔を向けたと思ったら睨んでくる。 それが直ったと思えば変な事聞くだけ聞いて。 フラフラ帰ってったと思ったら、カバンとコートおまけにプレゼントまで忘れていった。 怒る先生に仕方なく同意の笑顔を向ければ肩を叩かれた。 なんで俺が針谷なんかの為に…… 抱えた荷物は重いし、今から行ったんじゃ開店時間に間に合わない。 取りあえず店に戻る事にした。 様子がおかしい針谷。 原因なんて一つに決まってる。 「……針谷と何かあったのか?」 「えっ……!!」 「……ああっ!!」 聞くタイミングを間違えた。 マスターに言って早めに仕事上がらせて貰ってケーキを焼いた。 別に、ついでだし。 それはいいんだけどさ。 完璧な焼上がりのスポンジに仕上げのクリーム。やりたいって言うからやらせてやったのに。 クリームを絞った手はまだ止まらない。 「おまっバカ!!……あー、なにやってんだよ……!!」 「あっ……!!ご、ごめん。」 おかしいのはこいつも一緒で。 この前まで泣き腫らした目してたと思えばボンヤリに拍車がかかって、この有様だ。 直し様のないクリームに溜め息ついて睨んでも、頬がほんのり赤くて余計にイライラする。 出来上がったケーキと荷物を抱えた俺を置いて、そそくさと先を歩くあいつが俺の人魚だなんて、絶対認めないぞ……。 認めたくもない。 [次へ#] |