_ 「オッス、奈子。……ワリィな、こんな時間に呼び出して」 「いいよ、今日はちょっと冷えないし」 「……そっか」 それっきり、言葉は続かない。 チラッと見た奈子のほっぺはピンク色。 キラキラした目はオレを見てる。 ……オレが話しだすの待ってくれてる。 けど、オレはやっぱり緊張してた。 ライブの時とは質の違う緊張感。 ジェットコースターの落ちる寸前ともちょっと違う。 真っ白にキリモヤかかった脳ミソ。 完全に思考は停止。 ごくっと生唾を飲み込んだ瞬間から、何から話せばいいかさえ分かんなくなってる。 「ギター……」 「……え?」 奈子がポツッと何か言った。 そん時のオレは正直イッパイイッパイで、聞き返すのが精一杯だった。 「……毎日、学校にくるとギターの音がするの。」 「…………」 気付けば、ジッと手元を見られてた。 「……やっぱりハリーだったんだね」 「……!!」 今だっ、って思う…… のに。 やっぱ口が動かねぇ…… やっと出てきた言葉っていったら。 「……なんで?」 これじゃ否定してんのと一緒じゃん…… さっきから、ギター入ったケースをバッチリ見られてんのに。 「……うん。ハリーのギター聞いた時アレっ?て。 ハリーが、お休みした日もパッタリ止まって聞けなくなっちゃったし……あと、」 「……あと?」 「あと、……ケンカしちゃった時もパッタリ。」 「…………うっ」 ……い、一応屋上には来てたんだ。 けど、あん時はもう隣りで話すなんてムリだ…って思ってたし。 指から出る音は泣き言みてぇで、そんなんオマエに聞かせたくなかった。 ……カッコいいオレだけ見てて欲しくて。 なんか本当バッカみてぇだけど。 「……あの時は悲しかったな。全部に見捨てられちゃったのかなって思った」 「……悪い」 奈子が欲しくて欲しくて堪んなくて。 手に入らないって分かったら、傷つける事しか出来なかった。 そんなガキみてぇなオレにも、いつだって奈子は笑って許してくれていた。 ほら、こうやって。 「ううん。仲直りしたらまた聞こえたから。」 我ながらゲンキンだって思う。 やっぱり目の前に立たれたら恥ずかしくて顔も見れねぇのに。 「……待ってたから嬉しかった。」 「……え?」 「一日の始まりに聞くとね、すごく元気になるの。よし、今日も頑張ろうって気分になるんだ。」 「……奈子。」 散々イメトレして用意した言葉も、全部緊張で飲み込まれてた。 だけど、 今はそんなん全部忘れちまう位、奈子の言葉が嬉しい。 だから、オレにしては自然に言えたと思う。 「好きだ。」って。 [*前へ][次へ#] |