4 「やい幸之進!」 「ああ?」 オレの機嫌は不機嫌MAX。 大嫌いな名前を呼ばれればなおさらだ。 振り返った先には誰もいない。 ずらした視線を下ろせば、キャンキャン騒ぐマスク姿のガキが一匹。 「よくも、おねえちゃんを泣かせたな!」 「はぁ?」 うるせぇな。って、 ガキの言葉をシカトして前を歩く。 そしたら、いきなりノートみてぇな。 そんなモンが、 頭にカーンと当たって飛んでった。 「!!…いってー、このー…」 ……こんの、ガキ!! オレは今それどころじゃねぇんだ! 遊びなら他あたれって怒鳴ろうとした。 だけど、 そいつの顔みるみる変わってって……、 思わず言葉を飲み込んだ。 最近、よく見る……この顔。 しかも、つい、さっき……だ。 「ハリーにだったら、おねえちゃんを任せてやってもいいと思ったのに……」 「はー……落ちたぞ、ほらよ」 こんなちっちぇガキのくせに妙に使い古された、メモ帳。 ちょっとの興味でページを開く。 情報、と評価ぁ……? 針谷幸之進……、 こ、コイツ、よりによってオレの名前をフルネームで!! その下には、 ライブで配るプロフよか断然細かいプロフィール。 だけど、オレのファン……ってワケでもなさそうだ。 ……コイツのねぇちゃんって誰だ? ふっと頭を霞めた考えがちらつく。 それは評価のあたりで、確信に変わった。 「……オマエ、めんたいこの…」 「オレと、おねえちゃんは! ほっぺにチューした仲なんだからな!!」 「……はぁ!?ふざけんな!!オレだってな…」 うっ…… 5月のアレは事故か。 さっきのは、ほとんど強引だし。 しかも……泣かせちまった…… マスクを外したコイツは、何やらじりじり近寄ってくる。 ちょいちょいと、手を振るコイツ。 ……仕方ねぇ。 んだよ?って視線を合わせてやった。 「くらえっ、風邪菌クラッシャー!!」 「うぉっ、きったねぇ!!」 そのままアッカンベーとガキが走りさる。 ……ゼッテェ許さねぇ!! 本気のダッシュでガキを追いかけた。 だけど一向に縮まらない距離の中、急に角度を変えて曲がったガキは、ビューと玄関に入ってく。 くっそー…… さすがは、小学生。 つーか、 筋トレ、甘ぇかも…… ゼェゼェと膝を付けば、めんたいこの家のまん前だった。 [*前へ][次へ#] |