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小間使いの復讐
伊織の幸せ4




「ごめん。聞けない。」


 そう言って、背を向けようとしたその時、


「待って!待ってください!!別に貴方と付き合おうなんて大それた事など、思ってません!!ただ、貴方に、一度だけ、一度だけでいいですから僕の想いを聞いて貰いたいんです!」


「・・・けど、僕は・・・。」


 どうしよう、恐い・・・。


 彼のアヴェマリアを聞いてしまったら、僕は・・・。


「不躾なお願いなのは重々承知しています。もちろん、これをきっかけに貴方に不埒なマネをしようなんて事も思っていません!!」


 更に、たたみ掛ける様に言ってくる彼にとうとう恐怖が爆発してしまう。


「もう!いい加減にしてっ!!芦原様に捨てられた今の僕なら、簡単に落ちるとでも思ったの?誰が、お前みたいな平凡なんか・・・っ!?」


 そこまで言って気が付いた。


 しまったっ!


 言い過ぎたっ!!


 慌てて口を押さえたけれど、


 後悔しても、一度口から出てしまった言葉は、無かった事には出来ない・・・。


 恐る恐る、彼の様子を見てみると、バイオリンを持ったまま、俯いていた。


「は、はは、、そうですよね。分かってますよ?貴方みたいな人に、僕みたいな平凡が似合わないって事くらい・・・。でも、貴方への想いは、誰にも負けない。貴方にとっては、迷惑以外の何物でもないのでしょうが・・・。」


 そう言うと、静かにバイオリンをケースに片付けている。


「あ、あの・・・。」


 ごめんなさい。


 その一言が、喉に痞(つか)えた様に出てこない。


 どうしていいのか戸惑っていると、


「しつこく言ってすみませんでした。もう、ここには二度と来ませんから安心して、ここで寛いでいてください。」


 それだけ言って、彼は出て行ってしまった。


 残された僕は、放心状態で立ち尽くしていた。


 

 
 どれくらいそうしていたんだろう。


 窓の外は、随分とオレンジが色濃くなって来ている。


 その、オレンジに引かれて、窓に近いて何気なく外を見てみる。


 あれ?


 あそこってもしかして・・・。


 間違いない。そこからは、いつも親衛隊が使っている空き教室が見えた。


 そっか、思い出した・・・。


 あそこで聞こえてたんだ。


 ・・・・・

 
 だから彼は、音楽室じゃなくこの化学室を使ってたの?


 僕を見るために?


 じゃあ、良く会議の時にバイオリン音色が聞こえて来てたのは、いつもここで、僕を見ながら引いていてくれていたからなの?


 ふふっ、なにしてるんだよ、もうっ!


 こんなところで一生懸命引いても、今日は中止になったから、僕は見れないよ?


 それでも、引いてくれていたの?


 僕のことを想ってずっとずっと・・・。


 それなのに、あんな酷い事言っちゃったよ・・・。





「ひぅっく、ごめん・・・うぅっ、ごめんなさい・・ひぅぅっ」


 オレンジ色に染まる教室で、一人泣き崩れた。





 

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あきゅろす。
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