小間使いの復讐 伊織の幸せ3 「待って下さい!伊織先輩!!」 「・・・・・」 早く出て行きたいのに、何故だか、彼の言葉に足が止まってしまった。 でも、振り返る事は出来なくて、背を向けたまま、静かに彼の言葉を待った。 「えっと、あの、不躾なお願いなんですけど、最初から僕のアヴェマリアを聞いていただけないでしょうか。」 「・・・えっ?」 どういう、事? 「貴方は、きっと知らないと思いますが、僕は、放送部の部員で、いつも、講堂では生徒会と一緒に居ました。」 「放送部の人?」 「そうです。貴方は、いつも会長ばかり見ていたから、平凡な僕のことなんて覚えていないんでしょうが・・・。」 「・・・ごめんなさい。」 まさにそのとおり、全く覚えていないです。 「くす。いや良いんですよ。元々僕は、影が薄いんです。貴方が知らなくても無理はないです。」 「・・・・・」 「すみません。話が脱線してしまいましたね。それでですね、一心に会長を見つめ続けている貴方に一目惚れしまして、貴方を想ってずっとアヴェマリアを引いていました。貴方のその姿はまさに、乙女の祈りそのものでしたから・・・。」 「・・・一目惚れの相手を目の前にして、随分と淡々と喋れるんだね?」 彼の言葉は、嬉しかった・・・。 でも、素直に受け取るのが恐い。 「そう見えますか?ははっ、良かった・・・。会えるはずもない貴方にこうして会えて、本当は有頂天になっているんです。もし、淡々として見えるのなら、練習の成果かもしれません。貴方に告白するのは、これが初めてでも、心や夢の中では、何百回、何千回と繰り返してきましたから。」 な、何千回・・・。 ギョッとして、思わず振り返って見ると、顔色を失くした彼が、バイオリンを手に、微(かす)かに震えている。 「もう一度、お願いします。僕のアヴェマリアを聞いて頂けませんか?」 彼の震える肩が、真摯な目が、僕を本気で想ってくれている証だと十分分かっているのに、どうしても恐くてたまらない。 何が、恐いんだろう? 同情されるのが? 裏切られるのが? それとも、また、本気になってしまうのが・・・? [*前へ][次へ#] [戻る] |