[通常モード] [URL送信]

小間使いの復讐
ほのぼの 芦原side




「・・・風香。そろそろ、


「あっ、会長様、会長様はリンゴは好きですか?」


「あ、あぁ・・・。」


 

 小首を傾げながら、俺に見せるように軽くリンゴを持ち上げている風香。





 ふぅ・・・。


 中々難しいものだな・・・。


 愛しい恋人の肩に伸ばしかけた手を握り締めて、小さくため息をつく。




 今日は週末。


 明日は休みだからと、俺の部屋に泊まりに来ている風香が楽しそうに料理を作っている。


 その後姿を眺めながら、俺は、あることを風香に切り出すタイミングを窺っていた。


 それは・・・


「会長様、そんなところで立ってないで、リビングで寛(くつろ)いでいて下さい。今日も忙しかったんですから、少しでも体を休めていないと。」


「あ、あぁ・・・そうだな。」


 名残惜しくはあるものの、風香の労(いた)わりの言葉に黙って従う事にした。


 そして、ドカッとソファに座り、静かに目を瞑る。




 付き合いだしてからは、毎週の様に週末になると泊まりにくるようになった風香。


 今は、料理が余り得意でない風香が、俺の為に懸命に危なっかしい手つきで、リンゴの皮を剥いてくれている。


 きっと、今日も無残に切り刻まれたリンゴが出てくるのだろう。


 練習でもしているのだろうか?、毎週何故かリンゴだ。


 だが、そんな事は、どうでもいい。


 どれだけ無残なリンゴを出されようが、それが今日もどれだけ大量に出されようが、


 俺にとっては、これが、至福の時間なんだ。


 
 特別な事など何も無いが、風香と過ごす時間はすごく満ち足りていて、俺の疲れた心を癒してくれる。


 同じ空間に居るだけで癒しになる相手など、きっと風香以外にいないのではないだろうか?






 だが、幸せな時間というものは、同じ時間が刻まれているとは思えないほど、早く経過していくもので、


 まだ、一緒に居るにも係わらず、月曜日の事を思うといつの間にかため息をつく事が多くなってしまった。


 その結果、先週、風香に誤解を与えてしまったようで、


<会長様は、僕といてもため息ばかり・・・。僕とじゃ、つまらないですか?>


 悲しそうに俯きながらそう呟いていた。


 その時は、何とか誤解を解くことが出来たのだが・・・。


 風香を不安にさせていたなど、思いもよらなかった俺は、風香の言葉で決心をした。


 風香と共に住む事を・・・。


 

[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!