悲しい現実
「紫藤先輩。」
雪くんは、あの方の呼び掛けに、笑顔で答えていた。
廊下からこちらへと姿を現した、あの方、紫藤さまは、
「ユキ、ごめんね?遅くなって。」
と、優しい笑顔で、雪くんに声を掛けていた・・・。
その後も、色々とやり取りをしていたみたいだけど、僕の耳には、全くと言っていいほど、入ってこなかった。
<ユキ。>
優しい笑顔でそう言ったあの方の姿が、何度も頭を掛け巡った。
<ユキ。>
<ユキ。>
あんなに聞きたかった、貴方の声が、
今は、悲しくて、悲しくて・・・。
あの方は、唯、雪くんの名前を呼んでいるだけ・・・。
なんど自分に言い聞かせても、心が晴れることは無かった・・・。
抜け殻のように、二人を見ていると、僕に気付いた双子の会計たちが、「「雪!!ほら、あの子!!」」と嬉しそうにハモリながら、僕を指差していた。
皆の視線が、一斉(いっせい)に僕に集まって、心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走り、正気を取り戻した。
だって、あの方も僕を見たような気がしたから・・・。
けれど、それも一瞬だった・・・。
視線は、すぐに逸らされ、二度とこちらを見てくれることはなかった。
いつもの事・・・。
あの方は、決して僕を見ては、くださらない・・・。
分かっていたことなのに、
やっぱり辛い・・・。
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