後悔
僕は、今、廊下を早足で急いでいる。龍馬君から預かった、カードキーを握り締めながら。
今の時間帯は、皆自室に入っているようで、いつもより閑散としていて、誰にも会うことは無い。
気が焦って、忙しなく足を動かしながらも、先ほどまで交わされていた、龍馬くんとのやり取りを繰り返し思い出していた。
「あの日、事情を知ってから、部屋から一歩も出て来ねぇんだ・・・。飲まず食わずで、出るものも出ないのか、トイレにさえ、ほとんど出て来ねぇ。」
「えっ!?あれからって、・・・一週間近く経ってるよね!?」
苦しそうに、雪くんの現状を伝えてくる龍馬君の言葉に耳を疑った。
あれからって、そんな!
「・・・あぁ、俺じゃあ、駄目なんだ・・・。何度、声を掛けても、返事すらしてくれねぇんだ・・・。」
眉間にシワを寄せながら目を伏せている龍馬君の表情から、雪くんのことをどれほど心配しているのか切なくなるほど伝わってくる。
その、あまりの悲痛な表情に、言葉を失ってしまった。
「・・・・・」
「・・・あの日、お前に怪我させたのが俺だと知って、俺の足元に縋りつくように、なんで、なんでと大声を上げながら泣き崩れてしまったんだ・・・あの明るくて、強い雪が!すべて俺の責任だ!」
その時の事を思い出したのだろう、苦渋の表情で、髪を掻き揚げ、クシャッと握り締めている。
「・・・・・」
「後悔しても、しきれねぇ・・・なんて愚かだったんだ!俺は!!」
龍馬君は、悲鳴のような怒鳴り声で、そう言うと、苛立ちをぶつけるように、思いっきり壁を殴った。
「ダメ!!、ほら手から血が出てるじゃない・・・。」
僕は、ノンちゃんを静かに離し、龍馬君の拳を掴んで、そっと傷口を手で覆った。
「川原・・・。」
龍馬君は、悲しそうに僕の名前を呟くと、もう片方の手で、拳を覆っている僕の手を優しく触れてきた。
その手の暖かさに引かれ、僕は、ゆっくりと龍馬君を見上げると、
「本当にお前は、他の親衛隊とは違うんだな・・・。なのに俺は、そんなお前の言葉も聴かず、一方的に疑った上、突き飛ばして怪我をさせてしまった・・・。こんなに、優しいヤツだったのに・・・。本当に、すまなかった。」
龍馬君はそう言って、頭を下げてくれた。
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