龍馬視点4
暫く沈黙が続く。
雪は頭を下げたままで動かず、浅生は腕を組んだままで雪をジッと見ていた。
「……」
その状態から更に5分経過。
「……」
10分経過――
「…っ……」
雪の体が小刻みに震えてきた頃、浅生が「もういいよ」と声を掛けた。
その声にハァーと盛大に息を吐き出した雪が、倒れ込む。
そりゃそうだろう。ずっと膝に頭が付きそうなほど体を曲げていたんだ。
その顔は血が上って真っ赤に染まっていた。
「大丈夫かっ!? 雪」
思わず駆け寄っちまうほど、雪の状態は今にも目を回して倒れちまいそうだった。
浅生はそんな俺たちを見下ろしながら、
「ユキちゃんの心の傷に比べればそんなのどうって事ないでしょ?」
と口角を上げていた。
――――
――――――
それから浅生は色々教えてくれた。
優希と紫藤の子供のころや、現在に至るまで全部。
浅生に聞けば何かわかるかもとは思ってはいたがまさか、こんなに詳細な事まで俺たちに教えてくるなんてな。
雪も同じことを思ったのか、その事をポツリと漏らしてみれば、
「お前の目的が分かって安心したのと……」
そう言いながら、浅生は雪に近づいて行き、その脇腹をドスンと殴った。
「お前の頑張りが良く分かったから」
鈍い音がしたから相当痛かったんだろう、雪が脇腹を押さえてうずくまりながらも浅生に「え?」と聞き返している。
雪の反応に浅生は表情を和らげると、
「お前の存在は、いい意味でも悪い意味でも僕たちに風を送り込んだって事。お前がここに来なかったら、ユキちゃんはあんなに辛い思いをしなかったかもしれない代わりに、何の進展もなくただ黙って卒業する紫藤を見送るだけだっただろう。それはそれで良いのかも知れないけれど、きっとユキちゃんは思い出に縛られたままこれから先もずっと生きていかなきゃならなかったと思う」
同じようにしゃがみ込んでは雪に笑いかけていた。
「おかげでユキちゃんは強くなったよ。立花の真意も分かったし、悪い事ばかりじゃない」
そう言って雪に声を掛けた浅生の姿に、なんでコイツが川原の親友なのか分かったような気がした。
「もちろんユキちゃんを傷つけた事はまだまだ許してやらないけどね」
所々で出てくる暴力の理由はそういう事らしい……。
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