龍馬視点
川原との事を報告するため、早速雪に会いに行った。
最近の雪は、川原と立花の仲睦まじい姿を見るのが嫌なのか、ほとんど生徒会室に寄り付かなくなっている。
「雪……話してきたぜ」
「・・・・・」
雪にはこれで分かるはずだ。
思った通り、雪は不安そうに顔を上げると今度は静かに俯いてしまった。
何が起こってんのかわかんねェ時ほど不安な事はねェよな。
しかも当事者の一人として身を置いている雪の事だ。余計に不安だったに違いねェ。
だが―――
「……お前、紫藤とキスしたんだってな」
知らなきゃ良かったって思う事だってあるんだぜ?
それももう、今更だけどな……。
「なっ……」
驚きの表情を隠そうともしない雪。変装してても手に取るように分かる。
「聞いた…川原から。……アイツ偶然見ちまったんだと」
知っちまったら、後は受け入れるしかねェ。
だが、心配すんな。お前は一人じゃねぇ。俺が絶対に傍に居てやるから。
たとえ、お前が他の誰かを見ていようとも……。
瞳を伏せ、そう心の中で呟くと、事の発端となってしまった雪の知らない事実を口にした。
「っ!?」
絶句する雪をチロリと見てから、ヤッパ川原の言う通りだったかとため息を付いた。
「なんでそんな事になった? 確かお前、失くしたペンダントを探しに行ってる時だよな?」
そう、雪がペンダントを失くしたと早朝から探しに行った日の事だ。
俺も一緒に探す予定だったんだが、アイツの下駄箱が酷く汚されていたんで俺は掃除すると言って残った。
その時たまたま散歩で通りがかった川原が手伝ってくれて、いろんな話をしている内に川原が雪を探しに行くと言い出したんだ。
そんで、川原は見ちまったんだよな。
雪と紫藤がキスしてるとこを―――
雪が紫藤に惚れちゃいねェ事なんざ、はなっから知っている。なのに、何でそんな展開に……。
眉間にしわを寄せながら雪の言葉を待っていると、雪は狼狽えながらも必死に思い出そうとしている様だった。
「あの日、ペンダントを探して……けど、全然見つからなくて、そんで四つん這いになって草の根を分けたりして探してたら、紫藤が立ってて」
「あぁ」
「呼出しがあった日に、どうやら紫藤がペンダントを拾ってくれてて、それを俺に渡してくれたんだ」
「そんで?」
「ペンダントが見つかって嬉しくて泣きそうになってたら……『君は、あの時もそうやって四つん這いで探していたんだろうね』とかって良く分かんない事言ってきてさ、困惑してたらいきなり抱きしめられてキスされたんだ。俺、びっくりして、何が起こったのか分かんなくてパニクッてたんだけど、でもアイツの目を見て冷静になったんだ」
「目?」
「うん。なんて形容したらいいのか分かんねェんだけど、すっごく辛そうで。あ〜、コイツ、俺の事好きとか言いながら他に好きな奴いるんじゃねェかなって思ったんだ」
だんだんと思い出してきたのか滑らかな喋りになる雪。
その表情は真剣で、どんな些細な事でも思い出そうと必死だ。
そんな中、当然気になるワードが出てきて―――
「他に好きな奴?」
「うん。それを紫藤に言ったら思いっきり反応して、『僕が好きなのはユキ、お前唯一人だけだっ!』って叫んで逃げてっちまったんだよな」
「っ―――紫藤が叫んだのか?」
「うん。信じられないだろうけど、ホントの事だよ」
「・・・・・」
あの澄ました王子が、叫んだ……。そんな事、普段なら絶対にありえねェ事だ。
いつも物静かで、立ち居振る舞い優雅な王子様。
それが突然叫ぶなんざ……
図星を突かれたからに違いねェ。
「・・・・・」
無言で考えを巡らせる。そしたら雪が、ポツリとこんなことを言い出した。
「あと、気になる事と言えばだけど」
「なんだ?」
「雪って名前に異常に執着してる様に思えるんだよな。俺の事は好きじゃないくせに宝物みたいに呼ぶんだ。雪、雪ってさ」
「……名前」
「うん。それと四つ葉のクローバー。確か『あの時の僕の服がクローバーで青臭く汚れていたらしいから、きっと君もそうだったんだろうね』って言ってさ」
「あ?……そう言えばさっきもあの時って言ってなかったか?」
「え……あっ、そうだよ。確かに『君は、あの時もそうやって四つん這いで探していたんだろうね』って。……けど俺、紫藤とクローバーで青臭くなるような事したって経験ないんだけどな」
雪のその言葉で確信を得る。
「なぁ……もしかしてだが」
「あ……ヤッパ龍馬もそう思うか? 俺も今そう思った。もしかして、紫藤って……俺の事、誰かと勘違いしてる?」
「・・・・・」
雪もそう思ったかと、もう一度二人で整理してみる事に。
紫藤は雪を好きと言いながらキスしてきたが好きじゃない。
紫藤には他に好きな奴がいる。
雪という名前に固執している。
クローバーに思い入れがある。
それに俺が感じた事や雪が思った事を加えて総合的に見てみると、ひとりしか思いうかばねぇ。
っつー事は、やっぱり……。
「・・・・・」
俺が無言で視線を雪に向けると、雪も「あぁ」と重い息を吐き出しながら頷いていた。
絶対にそうだ。アイツしかいない。
真っ白で穢れのない可愛い恋敵。
「川原優希、か……」
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