どうして
「マジで怖ぇ〜な……アイツ」
「すみません……」
廊下を歩きながらそう漏らす龍馬君に思わず謝ってしまった。
確かに怖かったよね……。まだ、脳内であの笑い声が響いてるよ。『フフフ……』
――――
――――――
龍馬君とやって来たのは空き教室。
とはいえ、S組とはそんなに離れていない所にそれはあって、ノンちゃんに配慮してあんまり遠くならない様にしたのかな?って思うとちょっと笑ってしまった。
クスッと笑っている僕に龍馬君が表情を変える。
不思議に思って、笑いと止めて小首をかしげてみた。
「龍馬君?」
暫くの沈黙のあと、龍馬君が重い口を開いた。
「川原……お前、なんで会長補佐になった?」
「っ・・・」
龍馬君の言葉に驚くものの、当然の疑問だと思って瞼を伏せる。
「お前は、紫藤の親衛隊じゃなかったのかよ」
自分の事じゃないのに苦しそうな声を出す龍馬君に視線を向けると、彼は顔を逸らして眉根を寄せていた。
「あの日、下駄箱で会ったお前は嘘なのかっ!?」
吐き出すようにそう言った龍馬君は、傷ついた表情をしている。
僕はその横顔を見つめながら答えを返した。
「嘘じゃないよ」
そう―――あの日、龍馬君に言った言葉には一つも嘘はなかった。
雪君にあんなに醜い嫉妬をしてしまうくらい、あの方だけを想っていた……。
だけど―――
「……僕は親衛隊長、失格だったんだ」
「っ……」
弾かれた様に振り返った龍馬君の瞳は、驚きの為に見開かれている。
僕はそれに目を細めると、一部始終を話し始めたのだった。
「あの日、龍馬君と下駄箱で会った後―――――」
――――
――――――
「……雪が、紫藤と」
「……うん」
最後まで言い終わると、龍馬君がポツリと呟いた。
雪君、龍馬君に言ってなかったのかな? って思いながらそれに頷くと、
「でも、それはきっかけに過ぎないんだ。今の会長補佐は自分の意志でやってるから」
「……じゃあ、紫藤の事はもうどうでもいいのかよ」
「っ―――どうでもいいって訳じゃない……だけど、今は、誤解を解くだけじゃなくて、立花さんを支えたいって思ってるんだ」
立花さんは、なんでも背負い込んでしまう人だから。
なのに人には弱音を見せない強い精神力を持っている。
そんな立花さんが、僕だけに見せてくれた本当の姿。
ほんの少しでもいいから、あの人を支えていけたら……。
僕がそう言い切ると、龍馬君は深くため息を付いた。
呆れてるってのとも違う、重い溜息。
「唯でさえ、ややこしいのに更にややこしくなっちまったな」
龍馬君は最後にそう、漏らしていた。
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