龍馬君の話
―――数日後
「ヨォ……」
そう声を掛けられて振り向いた先には龍馬君がいた。
―――
―――――
突然の龍馬君の登場に驚いたのは、僕だけじゃない。
休み時間で緩んでいたS組全体が、一気に緊張感で包まれる。
そりゃそうか。龍馬君がこの教室に顔を出したのは、あの事件以来だから。
僕が雪君に制裁したんだと勘違いしたあの日以来……。
シンと張り詰めた空気の中、おもむろに立ち上がって龍馬君に向き直る。
すると、ノンちゃんが僕の前に立ちふさがった。
「西浦龍馬。よくノコノコと平気な顔してこの教室に顔出せたもんだね?」
ノンちゃんの鬼気迫る様子に、S組の皆も臨戦態勢に入る。あの日から皆、龍馬君の事怒ってるから。
けど、龍馬君はそれに苛立つ事もなく大人しく皆の様子を受け入れているみたいだった。
「……川原に話があるんだ。少しだけ、連れ出してもいいか?」
「ふざけんな。ユキちゃんに何の用か知らないけどさ、唯でこっから出られると思うなよ?」
表情を一切消し去ったノンちゃんは、物凄い迫力。
そんなノンちゃんを何とか止めようと、僕と同じくらいの華奢な肩に手を掛けようとしたら、それがスッと退けられた。
―――え?
ビックリして伸ばした手をそのままに固まっていると、
「―――と言いたいところだけど、今回だけは許してやる。お前が何をしにきたのか大体わかるし」
ノンちゃんが龍馬君に向かってそう言った。龍馬君も意外だったみたいでびっくりした顔してる。
龍馬君の用事が分かるって、どういう事だろう……?
意味が分からなくて小首をコテンと傾げていたら、「ただし、」とノンちゃんが龍馬君に人差し指を突き付けながら脅し始めた。
「ユキちゃんは今、微妙な立場にあるんだ。だから、ユキちゃんを連れ出すんなら命がけで守りなよっ!? もしユキちゃんに何かあったら、コンパスの針をお前の指先に突き刺して爪と身の境目が明確に分かるように綺麗に剥がしてやる。フフフ……」
ノ、ノンちゃん……。
今の微笑みは見なかった事にしよう……。
ノンちゃんの笑い声が響くたび、何故か教室内に黒い霧が立ち込めてくる。
「フフフ……」
怖い……。怖すぎる……。
見ない様にしてても精神に響いてくるよ……。
心なしか青ざめている龍馬君が「わ、分かった……」と深く頷くと、恐ろしい笑い声が響く教室を僕と二人で後にしたのだった。残されたクラスメイト達に事はこの際、考えないでおこう……。
なんだか良く分かんないけれど、龍馬君と一緒に行くことを許可してくれたみたいだしね。
「フフフ……フフフ……」
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