あれから
僕が会長補佐になって少しばかり慣れてきた頃の事。
まだまだ分からない事が多いとはいえ、少しは段取りが掴めて来たかな。
相変わらず日向先輩には無視される日々が続いているけど、頑張らなくちゃ。
少しでも、皆の役に立つように。
会長補佐になってみて色々分かった事があるんだ。
表立った仕事なんてホンの僅かで、後は裏方ばかりだという事を。
煌びやかな生徒会の皆様からは想像もつかないほどの地味な作業の繰り返しの日々なんだ。
当然雑用なんかも多く、僕はそれを任されている。
最初のうちは覚える事がいっぱいで会長室から出る事もなかった僕だけど、最近は要領も掴めてきたためか、会長室から出て他の事にも手が回るようになってきた。
とは言っても掃除やお茶汲み、それに書類の仕分けなんかが主なんだけど。
―――楽しい。
裏方の仕事って僕にはあってるみたい。
特に給湯室にいる時なんかは、設備の整ったキッチンに飲み物だけじゃなくてお菓子やパンなんかも作りたいなぁなんて、密かに考えていたりする。
―――皆、喜んでくれると良いんだけど……。
なんて、そんな事を考えていたら、給湯室に入ってきた立花さんに声を掛けられた。
「優希、悪いが少し出てくる」
そう言った立花さんの手には書類の束が。
「あ、はい」
慌てて僕は手を拭くと、長身の立花さんを見上げた。
「職員室に行くだけなんだが、少し時間が掛かるかもしれねぇ」
「打ち合わせですか?」
「あぁ。出来るだけ早く戻って来るつもりだが一人でこっから出るんじゃねぇぞ?」
「クスッ、わかりました」
心配性の立花さんに思わず笑って答えると、小さく笑い返してくれた。
そして、軽く手を上げ「行ってくる」と優雅に生徒会室を後にする立花さんの後姿を見送り、ひとつため息を付いたのだった。
ふぅ、迷惑……掛けちゃってるなぁ。
なんであんなに心配してくれてるかと言うと、僕と立花さんの噂で会長親衛隊の皆がピリピリしてるからなんだ。
いつ、襲われるか分からないって事でノンちゃんや立花さんから一人になるなとキツく言い渡されている。
だから、生徒会室では立花さんが、教室ではノンちゃんが僕と常に一緒に居てくれてるっていう訳。
二人にこれ以上迷惑を掛けない為にも大人しくしてなきゃ。
やりかけの仕事をする為、会長室へと戻る前に皆に紅茶を配っていると、「おい」と日向先輩に声を掛けられた。
久しぶりの日向先輩からの呼びかけにびっくりして固まる。
すると、僕に一枚の書類が差し出された。
「これを職員室へ持って行ってこい」
「あ、あの……」
突然の言葉に口ごもる。
「なんだ? 立花が居ないと職員室へ行くことすら出来んのか」
そう言っては鼻で笑う日向先輩。
カッと、羞恥で顔が赤くなるけれど、さっき立花さんに念を押されたばかりだからと、困って瞳を揺らす。
すると、あの方が立ち上がる気配を感じた。
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