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強欲




それからの事は思い出すのも嫌になる事ばかりだ。


生徒会室前で泣き崩れていた彼を慰めることも出来ずに、酷い言葉を浴びせるしか出来ない僕はとうとう、彼を失ってしまった……。


あれだけ直向(ひたむ)きに僕だけに向けられていた視線はもう、どこにもない。


僕がどれだけ、彼の姿を目で追おうとも。



******



学校中にある噂が広まっていた。


いままで一度だってなかったはずの噂。


『立花に本命が出来た』


こんな事、本来だったらありえないと気にも留めていなかった噂話だっただろう。


だけど、相手が『彼』となれば話は別だ。





いつも通り生徒会室にやってきた立花に視線をやる。


心なしか機嫌が良さそうに見えるのは気のせいなのか。


気が付けば、探るような目で幼馴染を見ていた事にため息を付いて視線を逸らした。


昔だったら、当たり前のように直接聞いていたんだろうな。


だけど、今はもう―――


子供の頃の様に無邪気になんでも聞けないのは当たり前だとしても、立花との心の距離を感じずにはいられない。


もちろんそれは自らが望んだ結果なんだけれど……。


彼の事だけじゃなく立花の事まで僕は―――。


何かを失うたびに僕は、どんどん強欲になって行っている気がする。


どれだけ大切だったかを思い知らされるからだろうか。


色んなものが欲しくてたまらない。


でも、結局行きつく先は一緒で、同じ結果を繰り替える事ばかり。


自分から突き放すことしか出来ない僕には、何も残されていないんだ……。





そんな矢先の出来事。


「失礼しまぁす。紫藤副会長はいらっしゃいますかぁ?」



ある朝、生徒会室に突然彼の親友である浅生君姿を現した。


男の子にしては小さくて華奢で可愛らしい容姿をした子。


浅生の事は、よく覚えている。


僕の親衛隊の副隊長という事を抜きにしても。


昔、親衛隊を説得にまわて傷つく彼を慰めていたのが浅生君だったから。


その浅生君が姿を現したんだ。


きっと彼の事に違いない。


改めて最後通告を告げに来たのかと、怖くて堪らなかった僕は、場所を変えるよう言ってきた彼に


「悪いけど、ここでしてくれる?仕事しなくちゃいけないから。」


最後の悪あがきしか出来なかったんだ。


もちろん、そんなもの通用する筈なんてなくて、結局僕たちは誰も使わないだろう第三会議室へと移動したのだった。





浅生君の話は、親衛隊長になったという報告とそして―――


「紫藤副会長。・・・僕より先に銀明に会いに行ったのって貴方じゃないんですか?」


決して知られてはいけない内容の確認のためだったんだ。




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あきゅろす。
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