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他に好きな奴



時間にしたらごく、僅かだったと思う。


そっと唇を離すと、ユキと目があった。


眼鏡越しで分かりにくかったけれど、たぶん間違いない。


ジッと僕の顔を見ている様だった。


だけど、彼の気持ちまではわからない。


分厚い眼鏡が表情を阻んで窺い知ることが出来なかったんだ。


代わりにユキの方からは僕の表情が良く読み取れたんだろう。


「なんで、お前がそんなに悲しそうなんだ?」


ユキからの言葉に驚きで目を見開いた。


っ――そうか、さっきユキが僕を見つめてたのは僕の真意を探るためだったんだ。


昔の僕を知っているユキには、僅かに滲み出た表情を読み取るくらい雑作もないのかもしれない


特に、今みたい状態の僕からは。


ダメだ。


これ以上気持ちを読み取られちゃいけない。


だって、僕の想いは―――




「お前、ホントに俺が好きなのか?」


ドクンッ――


ユキの言葉に肩が跳ね上がる。


心臓が鷲掴みになれたような衝撃が走った。


ダメだ。落ち着け。


いつもみたいに薄ら笑いを張り付けるんだ。


焦れば焦るほど自分が今、どんな表情をしてるのか分からない。


初めてだ。こんな事……。


動揺から立ち直れない心にユキが追い打ちを掛けてくる。


「紫藤。もう一度聞くけど、お前は、本当に、俺が、好きなのか?」


僕の真意を確かめるように、ゆっくりと区切りながら。


その言葉に、無理やり動揺を抑え込んで答えた。


「・・・好きだよ?」


大丈夫。これは本当の事だ。


明るくて元気な君は、いつも生徒会室を華やかにしてくれる。


仕事詰めで息が詰まりそうな時にも、君がいると皆、笑顔が溢れた。


もちろん、立花以外は……だけど。


ユキの質問の意図に気付いていながら、なんとかはぐらかせる様に思考を持っていく。


だけど、


「恋愛という意味で好きなのか?俺に恋をしているって事?」


本気のユキに、そんな子供だましは通用しなくて、結局僕は言葉に詰まってしまった。




たった一言の答え。


だけど、心の籠っていない薄っぺらな言葉には何の威力もないのだと思い知らされた想いを伝える大切な言葉。


その言葉が言えない僕は、ユキからくる質問の数々に答える事が出来ない。



「なぁ、なんでお前は俺にキスしたんだ? ・・・お前は、俺が恋愛対象として好きじゃないんだろ?」


「・・・・・」


「正直、お前の気持ちが分からない」


「・・・・・」


「他のやつには偽物の笑顔を振りまいてるくせに、俺にだけはスッゲー優しくて、ずっと不思議に思ってた。なんで、俺にだけってさ」


「・・・・・・」


「しかも、キスしてきて、好きだって言ったのになんで、そんなに悲しそうな目してんだ? 訳が分かんねぇよ」


「・・・・・・」


「俺の事は恋愛として好きじゃないくせに俺の名前だけは、いつも愛おしそうに呼んでるんだ。雪、雪ってさ」


「っ!? ユキ・・・」


それは、君が思い出の―――


「そう、そうやっていつも呼んでるんだ。大切そうに、愛おしそうに・・・」


「・・・・・」


結局何も言えない僕に、ユキが思いついたかの様に言葉を投げかけてきた。



「なぁ、もしかしてお前・・・他に好きな奴がいるんじゃないのか?」


何気なく言った一言だったんだろう。


だけど、図星を突かれた僕には、衝撃的な一言で。


「なっ!? ちがうっ! 俺が好きなのはユキ、お前唯一人だけだっ!」


それ以外であってはいけないんだと動揺する自分とユキに悲鳴のような叫び声をあげると、逃げるようにその場を後にしたのだった。




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