西浦龍馬
銀明のいる教室から出ると、僕は一人廊下を歩き続けた。
僕の頭にあるのは彼への想いだけ。
会いたい。
無性に彼に会いたくて堪らない。
だけど、もし会ったしまったら僕は……彼に告げなければならない……。
残酷で、最低な一言を。
制裁現場で止めに入った彼の姿を思い出す。
どれだけ虐げられても、決して諦めることなく説得し続けていた。
傷つけられ、何度涙を流そうとも。
一年の時からずっと彼はそうやって、親衛隊たちの意識を変えてくれたんだ。
諦めずに、少しずつ少しずつ……。
今の親衛隊があるのは、すべて彼のおかげだ。
彼が僕の為に全部全部……。
なのに僕は、その親衛隊から彼を排除しようとしている……。
会いたい。
会いたい……。
だけど、
会いたくない……。
会ってしまったら僕は……。
その言葉ばかりが堂々巡りに頭の中を駆け巡る。
どこをどう通ったのか、気が付けば下駄箱に向かう廊下を歩いていた。
いけない。
何してるんだ……。
生徒会室に戻ってからユキにペンダントを返しに行こうと思っていたのに。
そうして、踵を返そうとした瞬間、下駄箱の方から笑い声が聞こえてきた。
「くくくっ、雪の好きな奴って、俺にとっちゃ恋敵なわけだろ?・・・だが、そいつ、すっげぇいい奴でな?嫌いになれねぇっつうか・・・むしろ、気に入ってるんだわ。」
ユキ……?
その名前に惹かれて何気なく近寄ってみる。
すると、その直後に聞こえてきたのが。
「・・・そっかぁ、いい子なんだね・・・。困っちゃうね?」
―――っ、この声は。
会いたくて堪らなかった、あの―――。
「ブッ!!ククククッ、あぁ、困る。おまけにすっげぇニブいんだ。」
「ふ〜ん?」
フラフラと歩を進める。
すると、さっきまで下駄箱の影になって見えなかった二人の姿が見えた。
隙間もない程、抱きしめあう二人。
背の高い方は声を上げて笑い、小さな彼の頭を抱きしめながら撫でていた。
彼は恥ずかしそうにしながらも、相手のされるがままになっている。
それどころか、華奢な腕が相手の体に回されていた。
っ―――!
それを目にした瞬間、怒りに身震いが起きた。
あの子が他の男の腕に抱きしめられてる。
僕の……白雪―――。
爪が食い込むほど握りしめた拳が震える。
彼に触るな。
痛いほどの嫉妬に体中が悲鳴を上げる。
体中の血が燃え上がったように熱い。
僕の心を見透かした様に、視線を向けてきた男に憎しみが沸き起こってきた。
殺してや―――
そこまで脳裏に浮かんだ瞬間、
「ん・・・龍馬君?・・・どうしたの?」
気だるげな彼の声に、我に返った。
っ―――!
僕は、僕はっ……。
逃げるようにその場から立ち去るとポケットに忍ばせていたペンダントを握りしめた。
最低だ。
彼と向き合うことすらできないくせに、嫉妬で我を忘れるなんて。
傷つける事しか能のない僕に何も言えた義理じゃないのに。
彼が、誰を選ぼうとユキ以外を好きになっちゃいけない僕には何も……。
いい加減、諦めなきゃいけないはずなのに。
なんで、僕はいつまで経っても、動けずにいるんだ?
僕が選ぶべきなのはユキで、それ以外であってはいけないはずなのに。
それを一番わかってる自分が、いつまでもいつまでも望みのない想いにしがみ付いている。
選べないくせに。
傷つける事しかできないくせに。
このままじゃいけない。
もう中途半端は終わりにしないと。
自分が選ぶべき人間が一体誰なのか。
それをもう一度知らしめるため、僕は、このペンダントを拾った体育館裏へと歩いて行った。
そして、そこでユキと会う……。
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