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親衛隊



朝焼けが差し込む教室で、僕はいつもの笑みを湛えて銀明と対峙した。


銀明も、笑顔を貼り付けているものの、突然の僕の訪問にどこか警戒しているようだ。


そりゃそうか。今まで僕から話しかけたことなんて一度もなかったからね。





「朝早くからゴメンね?」


「い〜え〜。でも、紫藤様が僕にご用だなんて一体どうしたんですかぁ?」



ねっとりとした銀明独特の喋り方。


媚びてるだけの様に聞こえるけれど、これだって意味があるんだよね?


普段とは違う喋り方をする事で偽りの自分を作っている。


腕力を持たない君が持つ唯一の武器。ううん、鎧の間違いか。


君はそうやってこの学園で己の身を守ってきたんだよね。


類稀なる美貌の持ち主である君は、数多の男達から狙われた事だろう。




「うん。実は君に折り入ってお願いしたい事があるんだ」


「紫藤さまのお願いですかぁ?僕なんかに叶えられるかどうかぁ」


「フフッ大丈夫だよ?君だからこそ叶えられる」


「ご期待に添えるといいんですけどぉ?」




偽らないと己自身も守れない君が、立花の親衛隊長にまで登りつめた。


それは、ひとえに少しでも立花に近付きたかったからで。


銀明の名前があったとしても、大変な事だったと思う。


時には卑怯な手を使ったりもした君は当然の事ながら敵が多い。


それは、決して許される行為じゃないって分かってたけれど、そうする以外、近付く方法がなかったからなんだよね?


でも、そうやって必死で手に入れた立花の傍らは、遠くで見てた頃よりも心は遠く感じた事だろう。


どれだけ見つめようが、どれだけ近付こうが、相手は決して見つめ返してはくれない。


だって、自分は恋人ではなく親衛隊長なんだから。


親衛隊は、所詮親衛隊でしかなくて、どれだけ恋焦がれようとも対象とする相手からは決して大切に思われることはない。


親衛隊とはそういうものだときっと君は、そう思うことで傷だらけの自分を慰めている事だろう。


その事を一番良く分かっている僕が今、君に継げる言葉は―――




「僕の親衛隊長、川原君から手を引いてくれないか?」




所詮は親衛隊という君の考えを根底から覆すものだったに違いない・・・。










僕の言葉にさっきまでの笑顔が崩れ去る。


信じられないものを見たように目を見開いた後、憎悪とも悲しみとも取れる表情で僕を見てきた。




「……はっ……貴方が…それを言うんだ?」


喋り方も演技とは違うそれに、どれだけ彼を傷つけたのかが伝わってくる。


「…ごめん」


「――っ、貴方がっ! そんなに簡単に謝らないでよ!」


「うん……だけど、ごめん」


君を……傷つけて、ごめん。


みじめな思いをさせてごめん。




「そんなに……あの子が大事なの?」


小刻みに震えながらも彼は、僕から一切目を逸らさずに言葉を紡ぐ。





「……うん」





否定してあげれなくて、ごめん。


大事な、大事な、白雪なんだ―――。


僕も目を逸らさずに小さく、けどはっきりと答えた。


その瞬間、彼の大きな目から涙が零れ落ちる。


「……あの子、親衛隊だよ?」


「……うん」


「只の親衛隊なんだよ?」


「……うん」


僕が頷く度、彼の顔が泣き顔に変わっていく。





「……だけど……大切な子なんだ……」




けど、僕はもう、手段なんて選んでいられない。





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