銀明の元へ
あの日から事態は一気に加速し始めてしまった。
日向が取り押さえた男たちが、白雪のような彼を犯人だとでっち上げたんだ。
噂に加え、男達の証言。
もとより、彼の仕業だと信じて疑っていなかった日向には、その証言はやはりといったところだろう。
しかも、今回の容疑はユキを輪姦するよう命じたもの。
醜悪で非人道的な行為に激昂した日向が、彼を詰問すると息巻いていた。
その日向をなんとか落ち着かせたのがユキの捨て身の説得……いや、時間稼ぎかな。
けど、その捨て身の説得が、功を奏した。
どれだけ裏切られてもクラスメートを信じようとするユキの清廉さに、日向は胸を打たれ、その言葉を渋々受け入れたんだ。
もちろん彼は、ユキを裏切ってはいない。
ユキもそれを分かってる。だからこそ、彼の為に退学するとまで言ったんだろう。
ユキが作ってくれた貴重な時間を、無駄にするわけにはいかない。もう、手段なんて選んでられない。
ユキが落としていった四葉のクローバーのペンダントを握り締めて、翌朝、向かった先は―――
「ちょっといいかな?・・・銀明君」
彼を陥れようとしている首謀者であろう会長親衛隊隊長の銀明麗の所だった。
こんなに朝早くに銀明がいるかどうかはもちろん一種の賭けだった。
けど、彼はいた。
ぬかりなく磨き上げられた容姿に、匂い立つような色香を纏いながら、彼は静かに教室で一人佇んでいたんだ。
銀明は、僕を目にした途端、
「おはようございまぁす!紫藤様ぁ。僕に何か御用ですかぁ」
潤った唇を窄(すぼ)め、上目遣いでそう言ってきた。
より大きく見える瞳の下には、泣き黒子。
並の男相手なら一目見ただけで心臓を鷲掴みにしてしまうほど魅力ある仕草だ。
もちろんこれは演技。
可愛さの中に妖艶さも滲ませた、彼ならではの洗練された演技だ。
でも、演技なら僕の方が上だ。
だって、君は立花の前では演技なんて出来なくて、いつも泣きそうな顔をしてるじゃないか。
立花の姿を目にした嬉しさと、届かぬ思いの寂しさに。
好きな相手の前では素の自分を曝け出してしまう銀明は、僕よりずっと純粋なんだと思う。
どことなく僕に似てる君だから、何となく分かるんだ。
器用なくせに肝心な時には不器用で、一番欲しいものはいつも手に入らない。
もどかしくて、上手く立ち回ろうと頑張るけれど空回りばかりで。
欲しいものは、たった一本の差し伸べられる腕だけなのに、その人は決して差し伸べてはくれない。
きっと、僕が一番本当の君の気持ちを分かってるんだと思う。
けど、僕は今から、更に君を傷つける事を言おうとしている。
彼を守る為には、もう、手段なんて選んでいられないのだから……。
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