叔父
その日、父は帰って来なかった。
変わりに、次の日の朝、僕の叔父と名乗る人がこの家に訪れた。
もしかしたら今までに会ったがあるのかも知れないけれど僕は覚えていない。
その叔父さんは、宇野を見つけるや否や大声で叱責していた。
『何故ここに連れて帰ってきたっ!!』
『も、申し訳ございません・・・。ですが、美怜さまは・・・』
『黙れっ!!使用人風情が口を挟むなっ!!』
『っ!?、・・・申し訳、ございません・・・』
大の大人が、初老の女性を大声で叱り飛ばす・・・。
子供ながらに見ていて気持ちのいいものではなかった。
見かねた僕は、宇野を庇うように立ちふさがる。
『美怜さまっ!?』
宇野は驚いたように、声を上げた。
僕の目の前には、怒りを顕(あら)わにした大きな大人の男性が仁王立ちで立っている。
恐ろしくないと言えば嘘になるけれど、黙って見過ごす事なんて出来なかった。
叔父さんを睨みつけ、静かに立ち向かう。
叔父さんはというと僕を見た瞬間、驚きの表情を浮かべていた。
『っ・・・お、前・・・家でも寝たきりかと思っていればこんなに回復していたのか?』
『?体調が良くなったからこそ退院したんですけど?』
言っている意味が分からない。
何気なくそう言ったつもりが、男の癪に障ったようで、
『きさま・・・どこまでも邪魔しおって・・・。顔も母親譲りならしぶとさも母親譲りかっ!なら、母親同様、この家から出て行けっ!!』
『正親さまっ!!』
宇野の悲鳴のような声が響き渡る。
けれど、そんな事はどうでもいいんだ。
叔父さんは、とんでもない事を口にした。
『母さんが出て行ったって・・・それは一体どういう意味ですか?』
『あぁ?・・・フン、跡継ぎを生んだからこそこの家に置いてやってたんだ。たとえその息子が死に損ないのクズだったとしてもな。だが、本当に死んだら意味がないんだよ。』
何?
この叔父さんは何を言っているの?
死に損ないの、クズ・・・?
それって・・・僕の事、だよね?
死んだら意味がないって・・・。
僕は生きてる。
今こうして生きてるじゃない・・・。
『・・・・・』
訳が分からな過ぎて混乱してくるけれど、悪意だけはヒシヒシと感じられる。
僕は目を見開き、黙ったままで叔父さんを見つめ続けた。
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