朧月(おぼろづき)
何度も、繰り返される決別の言葉・・・。
その言葉に、何度傷ついた事だろう・・・。
けれど、瞼の裏に映る彼は、確かに僕だけ真っ直ぐ見つめていて・・・。
僕は、その瞳をいつまでも見続ける事が出来るんだ・・・。
その為なら、痛む胸などなんていう事はない。
現実に、ユキ以外の彼を見つめて彼女を裏切るより、ずっと罪は軽いような気がした・・・。
だから、僕は、何度も傷つきながらも何度も瞳を閉じる・・・。
決別の言葉を口にしながらも、僕を見つめてくれる彼の姿を見ていたくて・・・。
いつまでも、いつまでも、見続けたいと思っていた・・・。
けれど・・・。
『これからは、会長補佐としてよろしくお願いします。』
突然、脳裏に蘇った言葉にカッと目を開けた。
目を開けても蘇ってくる光景・・・。
生徒会室で、日向に怒鳴られ怯えていた彼が、安堵の笑みを浮かべて駆け寄り縋りついたのは・・・。
『立花さんっ!!』
彼の、熱いほどの視線も・・・。
切なくなるほど真摯な視線も・・・。
笑顔も、泣き顔も、困った顔も、漆黒のサラサラの髪も、透き通るような白い肌も、黒曜石のような黒い瞳も、全部、全部・・・。
「・・・っ・・・」
僕のものだと・・・。
歯をきつく食いしばり、拳を握り締めた。
「・・・はっ・・・」
今更、何を・・・。
誰よりも彼を傷つけてきたのは僕じゃないか・・・。
スルリとベッドから滑る様に降り立ち、窓に近付いて乱暴にカーテンを開け放つ。
シャッ
最上階にある僕の部屋は、沢山のものを見下ろす事が出来た。
それこそが、選び抜かれた人間だけが見れる景色なのだと言ったのは、誰だっただろう・・・?
フッ
どうせ、そんなくだらない事を言うのは、大方親戚連中の誰かだろう。
くだらない人間のくだらない戯言だ・・・。
何時までも、地べたを見下ろし優越感に浸っているといい。
けど、僕は・・・。
ゆっくり空へと向かって手を伸ばす。
あぁ、あの月はまるで彼みたいだ・・・。
全ての闇を優しい光で照らしているくせに、自信なさげな姿は、まさにあの霞掛かった朧月そのものだ・・・。
何度こうして月を見たことだろう・・・。
朧月夜のたびに、胸が高鳴る・・・。
まるで、彼に会えたような気がするから・・・。
だから今夜は、ずっとこの月を見ていよう。
眠らずに何時までもずっとずっと・・・。
彼の柔らかな光に包まれるのは僕だけでありたいと願いながら・・・。
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