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浅生(ノンちゃん)視点6
ノンちゃんSIDE




紫藤が今、何を考えているのか少しでもうかがい知る事が出来ればと思ったけれど、僕から見えるのは、均整のとれた後姿だけだった。


その後姿をジッと眺める。


紫藤がどんな反応を見せるのか・・・。少しの仕草も見逃すまいと瞬きも最小限に抑えた。


お互い暫くの沈黙の後、紫藤はクルリと僕に振り返ると


「さぁ、何の事?」


今日見た中で、一番綺麗な微笑を湛えながら僕の質問に答えていた。





そう・・・ここまで言っても無駄なんだ?


本当は、クローバーの事も確かめるつもりだったんだけどね・・・。


コイツがこんな状態なら、ユキちゃんとの思い出を覚えているかどうか確かめる気にすらならないよ。


もし、コイツにユキちゃんとの記憶が残ってたとしても、今のまんまじゃ意味がないんだ。


思い出の子がユキちゃんだと知って、手のひらを返した様に、優しくなったとしてもユキちゃんはきっと喜んではくれないはずだ。


ううん、それ以上に僕が許さない。


記憶なんて関係なく、純粋にユキちゃんを想ってくれていなくちゃ意味がないんだ。


過去のユキちゃんじゃなくて、今のユキちゃんを見て欲しい。


思い出という幻想の中で生きるユキちゃんじゃなくて、現実に居る今のユキちゃんだけを・・・。






そう心の中で考えた僕は、ドア近くに立つ紫藤に近付くと、猫を被るのをやめていつもどおりの話し方で喋り始めた。


「・・・あの日、アンタは星野とキスしてたんでしょ?」


「何で知って・・・。」


 突然の事に意表をつかれたのか、あの綺麗な笑みは消え失せ、代わりに目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。


けれど、僕は気にせず話を続けた。


「ウチの川原が見たんだ。」


「っ!?」


紫藤は流石に動揺したのか、口元を手で覆って、瞳を彷徨わせている。


「その後だよね?アンタが川原に親衛隊長を辞めるように言ったのは。」


「・・・・・」


「川原は、泣いてその場から居なくなったんでしょ?」


「・・・・・」


「アンタに疑われ、絶望の淵に立たされてた川原を慰めたのが立花なんだ。」

「っ!」


彷徨わせていた瞳を再び僕に向けると、ジッと見つめてきた。


「僕と川原は同室だから良く分かるんだ。立花の態度は傍目から見ても、川原を溺愛している。」


「・・・・・」


「時間の問題じゃないかな?川原が立花に堕ちるのは。」


僕はそこまで言うと、紫藤から離れてドアへと歩いて行った。そして、さっさとドアに手を掛けてそれを開いた。


そして、立ち去る間際に紫藤に振り返り、


「ま、星野の事が好きなアンタには関係のない事だろうけどね?」


それだけ言うと、バタンとドアを閉めた。






廊下を歩きながらほくそ笑む。


フフッ、とりあえず紫藤への揺さぶりはこれでいいだろう。


もちろんこれからもチョコチョコ苛めるつもりだけどね?


まあ、後は立花にお任せという事で。


僕は、時期が来たら銀明に会いに行くとしよう。


・・・・・


ただ、1つだけ気がかりがあるとすれば、


『さぁな。』


ユキちゃんが好きなのかって聞いたときの立花の返事が気になる・・・。


傍目から見ても溺愛しているように見えるって紫藤にいった瞬間、本当に思い当たるような気がしたんだ。


気のせいなら、いいんだけどね・・・。


まぁ、もしそうだったとしても立花の事だ。きっと上手くやってくれるに違いない。


そう信じて、僕は長い長い廊下を歩き続けた。

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