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本命





 あの日から程なくして、僕の部屋に立花さんが毎日訪れているという噂が学園中に駆け巡った。


 今では誰一人として知らぬものは居ないだろうと豪語できる程、学園中が、その噂で持ちきりだ。


 噂の内容は、二人が付き合いだしたのかどうかは定かではないが、どうやら立花会長は、川原優希に本気らしい。


 その証拠に、セフレ達との関係をすべて断ち切ってしまった。


 そのことで、会長親衛隊に衝撃が走ったのは言うまでもない。


 立花会長の川原優希への溺愛ぶりは凄まじく、寮に戻った後は殆ど、川原優希の部屋に入りびたりというものだった。






 立花会長に本命が現れた。


 その事が、どれだけ凄い事なのか分からないけれど、皆の驚きぶりをみると妙に納得している僕が居た。





 そして、その効果は如実に至るところで現れていた。





 会長親衛隊本部では・・・


「隊長っ!!」


「立花様から直々に二度と秘密の部屋に来ないよう通達があったっていうのは本当ですかっ!?」


「それは、立花様が僕達親衛隊との関係を全て清算したと言う事なんですかっ!?」


「どうするおつもりなんですかっ!?立花様が川原に本気になってしまうだなんて・・・。」


「今ではこっちの噂が持ちきりで、せっかく流した川原が強姦未遂の指示を出したっていう噂もたちまち打ち消されてしまいました!」


「隊長っ!!」


「銀明隊長っ!!」


「うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!!!」


「っっ!!隊長・・・。」


「銀明隊長・・・。」


 何で・・・どうして・・・。


 今まで、誰にも本気にならなかったじゃないですか・・・。


 川原にだって、靡(なび)かないのが珍しいだけだって・・・そうおっしゃっていたのに・・・。


 なのに・・・なんで今更っ!


「翔吾様ぁっ!!!」


 頭を掻き毟りながら跪(ひざまず)き、二度と呼ぶなと言われていた名前を声の限りに叫んだ。






 一方、生徒会室では・・・


「立花めっ!!腑抜けおってっ!!」


 一人激昂している日向を他所に、双子が騒いでいた。


「翔吾があの子に本気になったんだってっ!!」


「うんうんっ!雪はどうするんだろうね?」


「ね〜っ!」


「ねぇ、どっちを応援する?」


「えぇ〜そんなの決まってるじゃないっ!!」


「諒星は決まってるの?」


「流星は?」


「決まってる・・・ってそんなの。」


「「雪に決まってるじゃないっ!!」」


「「ね〜っ?雪ぃ!!」」


「・・・雪?」


「雪・・・。」


「あの・・・立花が優希の部屋に入り浸り・・・。」


 驚愕と苦しさからか、小さく呟いた声は掠れていた。


 立花が優希の部屋に入り浸りっていうことは、優希は立花を受け入れているって言う事なのか・・・?


 なんで・・・あんなにも立花を嫌がっていたのに・・・。


 俺の小さな呟きで、ぐしゃりと書類を握り締めた奴がいた事にも気付かないまま、なんでなんでという疑問の言葉だけが頭の中を駆け巡っていた・・・。





 まさに晴天の霹靂。


 今回の立花の行動で、二人が付き合うのは時間の問題だとされていた。 


 だけど、実際は・・・。
 




 もぐもぐ


「あ、しょうゆ取って。」


「あ?自分で取れんだろうが。」


 もぐもぐ


「そっちのが近いでしょ?」


 もぐもぐ


「チッ、しゃあねぇな。ほらよ。」


 もぐもぐ


「ん。」


 もぐもぐ


「立花さん、今日も和食でよかった?」


「ん?あぁ、美味い。」


 もぐもぐ


「ふふっ、良かった。」


 僕達3人で仲良く夕食を摂っているのが現状だ。






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