むせ返る香りの中で
立花さんは、僕の唇を撫でながら、
「マジで綺麗だな。この唇も、ここの薔薇に負けねぇ程、鮮やかな薔薇色じゃねぇか。」
「・・・・・」
虚ろな瞳で、されるがままに立花さんの楽しげな表情を眺めた。
立花さんの手が、僕の唇から首筋へと滑る様に移動していく・・・。
ゾクリと背筋が震えたけれど、僕は、瞬きひとつせずに立花さんを見つめ続けた。
ネクタイが抜き取られ、ボタンがふたつ程外された所で、立花さんが、艶めかしいため息を付いた。
「あぁ、想像以上に白いな・・・。まるで白雪みたいだ・・・。」
その言葉にピクリと反応した。
白雪・・・。
<優希っていう名前もいいけど、でも、白雪みたいに真っ白だから、ユキってよぶね?>
あぁ、あの方が言ってくださった言葉だ・・・。
それが、今、この瞬間に言われるなんて・・・。
それも、今から僕を抱こうとしている別の人の口から・・・。
僕は、そっと瞼を閉じて、一筋の涙を流した。
<どうしたの?なんで泣いてるの?>
むせ返るような薔薇の香りの中で、次々にあの方の言葉が脳裏に浮かぶ。
<じゃあ 僕が見つけてあげるよ>
<いいから 早く逃げて?10数えるよ?はい いーち にーい・・・>
だけど、別の香りが僕の鼻を擽る度、現実へと押し戻される。
この香りは、立花さんの・・・。
香りに惹かれ、そっと目を開けてみると、
柔らかい光が差し込む部屋で、真っ白いシーツの上に横たわりながら、僕の首筋で蠢く頭を目の端で捕らえた。
実際に聞こえていたのは、布が擦れる音と、僕の首筋を這う水音と、熱い吐息だけ・・・。
いつの間にか更にボタンが外され、僕の左肩が顕(あらわ)になっていた。
僕はそれを他人事のように感じながらも、立花さんの唇から与えられる小さな痛みを耐えるように再び目を閉じた。
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