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薔薇園で




 何処をどう走って来たのか・・・。


 気が付けば、さっきまで居た温室へと来ていた。


 だけど、さっきまでと明らかに違うのは、薔薇を見ても心が少しも晴れなかったという事だ。


 呼吸も整わない状態でしゃがみ込み、薔薇の花びらに触れてみたけれど、何の感情も湧(わ)いてこなかった・・・。


 ただ、むせ返る様な薔薇の香りが荒い呼吸の僕には、苦しくて・・・。


 もう、立ち上がる事さえ、出来そうになかった。





 はぁはぁはぁはぁ


 く、苦しい・・・。


 このまま死んじゃいそうだよ・・・。


 はぁはぁはぁはぁ


 けど、いっそこのままここで死んじゃった方がいいのかも知れない・・・。


 そしたら、もう、何も考えなくてすむ・・・。


 あの方にも、迷惑を掛けなくて・・・すむ・・・。





 瞳からどんどん光が、失ってくるような気がした・・・。


 もう、僕なんか、どうなったっていい・・・。


 このまま、ここで倒れてしまおうかと、床に手を付いた瞬間、






「ヨォっ。まさかお前の方から来てくれるなんてな。」





 ・・・だれ・・・?


 振り返る気力さえ、もう、残っていない・・・。


 だれでもいいか・・・。


 もう、僕には、すべてがどうだっていい・・・。


 どんどん瞳から生気が無くなってくるのがわかる。


 すると突然、ふわぁっと後ろから抱きしめられた・・・。





 ・・・だれ・・・?


 このむせ返るような薔薇の香りとは違う、別の香りを漂わせている人は・・・。





「・・・泣いてたのか?」


「・・・だ・・・・?」


 だれ?そう言いたかったはずなのに、


 香りに惹かれて、やっと出た声も、掠(かす)れてちゃんと相手には届かなかったようで・・・。


「あぁ、言わなくていい。興味ねぇから。」


 僕が泣いている理由を言おうとしたと勘違いしたんだろう、相手が、冷たく言い放った。





 言葉は冷たくても、背中越しに伝わってくる彼の体温が温かくて・・・。



「だが、忘れさせてやる。」



 そう囁きながら、時折僕の耳に触れてくる彼の唇が温かくて・・・。



「嫌な事など、何もかも。」



 薔薇とは違う彼の香りが、心地よくて・・・。



「すべて俺が、忘れさせてやるよ。」



 悪魔の囁きだと分かっていても・・・。



 僕は、無意識に、彼の胸に背中を預けた・・・。




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