幸せは自分で掴むもの
9
僕の事を興味深げに見つめながら顎に手をあて、小首を傾げるのはまさしく――
パピヨン王子っ!
え、えぇっ!? なんで!? なんでなんでなんでパピヨン王子がここにっ!
今度こそ完全に止まってしまいそうなほど、激しく乱舞する心臓にエールを送り考える。
ちょっと待てちょっと待て〜。
パピヨン王子は、黒薔薇の宿敵だったパピヨンの副総長で、それからそれから〜。えっとえっとぉ。
ぎゃあああっ! いくら考えても分かんない! なんでこんな所にパピヨン王子が居るんだよっ!
刈谷ぁっ!! 思いっきりヤバい奴に侵入されてるじゃないか! しっかり見張っとけよ! 役に立たない男だな、このヤローッ!
くるっと門の方向を振り返り、ギンッと睨み付ける。ってまぁ、あそこにあるのは監視カメラだけで刈谷が居るわけじゃないんだけど。
でも、そんな事よりそんな事より。
いやぁぁっ! 竜ちゃん! せっかく内閣府まで動かしてもらったのに、思わぬところで見つかっちゃったよぉ!
しかも、あのパピヨン王子にっ!
どうしよ、どうしよっ捕まっちゃうよぉ、連れてかれちゃうよぉと慌てていたら、パピヨン王子がクスクス笑い出した。
「クスクス、凄い慌てぶりだね。驚かせちゃったのかな。ゴメンね?」
「っ〜〜」
お、驚かせたって当たり前じゃないかっ!!
口から心臓が飛び出るかと思ったよっ!
「僕の事、聞いてなかったのかな?」
聞いてる訳ないだろっ! 聞いてたら誰がこんな所にくるもんか!
寝耳に水だっ! このヤローっ!!
賢い僕は本人に直接言わずに心の中で悪態をついた。
「おかしいなぁ。刈谷先生がちゃんと伝えておくって言ってたのに。特別な子だからって自ら監視モニターの前に陣取りながら」
あれのどこが特別扱いっ!? どう考えても不審者扱いだったじゃないかっ!
「まぁ、いいや。じゃあ、改めまして。ここで副会長を任されている神室恭介です」
パピヨン王子はにこやかにそう言うと、王子のような仕草で自己紹介をしてきた。
そういや、抗争の時にも自己紹介してたな――って、それはいい。それは。
そんな事より途中、とんでもない単語が聞こえて来た。
「ふ? ふ、ふふ」
「クスッ、何かおかしい事でもあった?」
「い、いや、笑ってるんじゃなくて――。誰が、ふ、副会長だって?」
「僕が」
「っ〜〜」
と、そこまで言ってから再び門の方に振り返り、
「副会長ってどういう事だっ! 刈谷このヤローっ!」
八つ当たりとも呼べる憤りを、未来の担任にぶつけたのだった。
そうこうしている内にも、パピヨン王子はクスクスと笑って。
「君って面白いね。なんだか初めて会った気がしないよ」
「はっ?」
初めて?
そりゃそうだろう。初めてあった訳じゃないんだから。
何言ってんだコイツ。
冗談のつもりか?
「そんな事より、副会長ってどういう事なのか説明してよ!」
「う〜ん……けど、君みたいな不思議な眼鏡を掛けた子に前に会ったことがあるのなら絶対に覚えてると思うんだけどな」
「無視かっ!……って眼鏡?」
意味が分からずコテンと首を傾げる。
って、はっ!
ゆっくりと手を持ち上げて自分の顔をぺたぺたと触ってみる。すると、目元に固くて冷たい感触が――。
――そうだ。僕、変装してるんだった!
パァッ! と目の前に希望の光が差し込む。
ありがとう竜ちゃんっ!
変装させてくれて。本当に本当にありがとうっ!
ロクでもない男だなんてちょこっとだけ思っちゃったけど、それは僕の誤りでした。ゴメンナサイ。
お陰様でまだ僕だって、バレてないみたい。
一気に気分が浮上した僕は、あははとパピヨン王子に
笑いかけた。
「あはは、いや〜、初めまして初めまして! 僕の名前は――っ!!」
って、危ない!危ないっ!
調子に乗って思わず名乗っちゃうところだった。
えっと、えっと……
焦った僕は思わず。
「僕の名前、何だっけ?」
パピヨン王子に聞いていた。
ぎゃあああっ!
パピヨン王子に聞いてどうするっ!
自ら不審者になっちゃったじゃないかっ!
何をしてるんだ僕はっ。
頭を抱えようと両手を伸ばしてみた。けど、あぁっ! ダメだっ! 鬘がズレちゃう。
仕方ない。人差し指でコメカミでも押さえてよう。何にもしないよりマシだ。
ギュ〜ッと頭が凹みそうなほどコメカミを押していると、パピヨン王子が声を上げて笑い出した。
「あははっ! やっぱり君って面白いね。ふふっ、僕が知ってるのは、理事長の特別な子って事だけ。だから、名前を思い出したらすぐに教えてね。約束」
そう言うと、パピヨン王子は小指を差し出してきた。
なに? 指切りしようって事?
……なんだかなぁ。
小学生じゃないんだからと呆れはしたものの、相手があまりにも期待の眼差しでみてくるもんだから、仕方なく僕も小指を差し出した。
その直後、パピヨン王子は僕の小指を攫って行って、そして――
「君が入学してくれる日を心から楽しみにしているよ」
僕の小指の付け根に唇を落としたのだった。
「っ〜〜〜!?」
いやあああっ! 変・態っ!!
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