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幸せは自分で掴むもの
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―――三分後


グジュグジュ鳴る鼻にティッシュを押し当てて一気にかんだ。チーンッ


そして、


「ハァ、泣いたらスッキリっ! そっちがその気なら、こっちだって負けないからねぇっ! 願書締切が終わってるからって諦めるとは思うなよっ!」


ドカッと椅子に座りなおすと今度は連絡先を調べたのだった。


覚悟しろよっ! 洞院学園。


僕はしつこいし、しぶといんだっ!





――――


――――――――



『……あの、ですから……』


あれからすぐに洞院学園に電話を入れた僕は、電話に出たお兄さんを二時間、説得し続けている。しかも、今はその真っ最中。


「どうしてもそちらの高校に入りたいんです! 僕にも試験を受けさせて下さい!」


『いや……あの、ですから』


「願書の締切が終わってる事も入試が既に終わってしまってる事ももちろん知ってますっ! ですけど、僕にもチャンスを下さいっ!」


『先ほどから何度も言っているとおり、それは出来ないんです』


「そこをなんとかっ!」


そんな具合で、僕はずっと受付のお兄さんに食いついている。


こんな兼ね合いを二時間、僕たちは続けているんだ。


それにしてもこのお兄さん、いい人だなぁ。


絶対に鬱陶しいはずなのに、根気よく付き合ってくれている受付のお兄さんに僕は好感を覚えてしまった。普通なら強制的に切られてしまってもおかしくはないのに、いい人だ。


入学した暁には絶対に会いに行こう。


その為にも絶対に入学してみせるんだと気合いを入れなおすと、


「僕にも試験を受けさせてくださいっ!」


向こうには声しか聞こえないっていうのに勢いよく頭を下げては、何十回何百回目かのお願いを口にしたのだった。


すると、急に電話の向こうからガタガタンという音と共に何やら言い争う声が聞こえて来た。


なになに? なにが起こったの? と更に受話器を押し当てて耳を澄まして聞いてみると、『貸せっ!』という声が聞こえた直後、


『さっきから無理だって何度も言ってんだろうがっ! とっとと諦めて屁ェこいて寝ろっ! このクソガキがっ!』


「ぎゃあああああっ!!」


プツッ……プー、プー、プー、プー……


さっきまでの優しいお兄さんとは違うガラの悪い人が急に電話に出てきて嫌がらせの雄叫びを上げると勢いよく電話を切られてしまった。


とうの僕はというと、耳を押さえて椅子から転げ落ちていた。


「ぎゃあああっ!! 耳が痛いっ! 鼓膜、鼓膜ぅぅぅ〜っ!!」


痛いっ痛いヨォっ


耳を押さえたままでのた打ち回っていると、さっききったばかりの電話が鳴り響いてきた。


プルルル〜プルルル〜


ぎゃああああっ!! 電話怖い、電話怖いっ!!


電話恐怖症になった僕は、床にお尻をつけたままで後ずさりをして逃げてはブルブル震えた。


けど、今は誰も他に出てくれる人はいないんだと思い出して、そっと電話に近づいてみた。


つんつん


鳴り響く電話の受話器を突いてみる。


当然、電話は鳴りやまない。


怖いヨォと唇を噛みしめながらも、そっと電話に出てみる事にした。


「もしも―――」


「さっさと出ろっ!! クソガキがっ!!」


「ぎゃあああああっ!!」


さっきのガラ悪い人っ!!


ビックリして受話器を取り落としそうになった途端、向こうが話しかけてきた。


「いちいち叫んでんじゃねェぞ! クソガキっ!……チッ、念のために聞いておくが、お前、名前は?」


な、名前っ? 名前聞いて何するつもりなんだっ!!


長電話の仕返しかっ!? 大人なのに大人げない男だなっ! コノヤローっ!


なんて思うものの、口に出して言わないのが僕の賢い所だ。だって、また怒鳴られちゃう。


そんな事を考えていたら、ガラの悪い人が痺れを切らしたのか、


「名前はっ! って聞いってんだろうがっ!!」


って結局怒鳴られちゃった。


これ以上怒らせたら不味い。鼓膜が破られちゃうと渋々答える事にしたのだった。


「………………倉橋佑」


『っ!? クッソッ、まさかと思って掛けなおしてみりゃ、やっぱお前……”佑君か?”』


「はっ?」


なに? 急に佑君呼ばわり……。気持ち悪い。


思わず鳥肌が立っちゃったじゃないかと口を尖らせていたら、


『”佑君”かって聞いてんだよっ!!』


またしても怒鳴られちゃった。


もぅやだぁ、この人怒鳴ってばっかり〜! と口を尖らせたけど、確かに佑だから、


「佑君だっ」


って答えてやった。


そしたら―――


『ちょっと待ってろ。理事長に代わる』


「へっ!?」


り、理事長っ!?


事態が全く掴めないまま、ただただ僕は流れてきた保留音を聞き続けたのだった。





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