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幸せは自分で掴むもの
7(竜一視点)




祥子さんをチラ見すると、少女の様な笑みを浮かべてまだ壁の隅を見ている。


それを見てため息をひとつつくと、頬杖を付いて再び視線を画面に戻した。


それにしても佑・・・こんな【王★道】の主人公に憧れてただなんてな。


考えてみりゃ、祥子さんが語ったあらすじの主人公はどことなく佑を彷彿とさせるものがある。


破天荒か・・・


何気なくPCで意味を調べてみる。


破天荒【前人のなしえなかったことを初めてすること。また、そのさま。前代未聞。】(大辞泉)


検索されて出てきた意味を見つめて、頬杖を付きなおす。


改めて意味を見てみると、やはり佑に当てはまるような気がしてならねぇ。


何故なら佑の存在、行動、言動は前代未聞の事ばかりだ。


自分自身が王道になるって言い出したのもそうだし、黒薔薇の総長として、パピヨンの総長をサシで倒し、二度と黒薔薇に手出しをさせないよう、約束も取り付けた。おかげで、俺達は和解し、竜二も黒薔薇に戻ってきた上、美伊那と付き合いだした。それこそ皆望んでいた事だけれど誰も成し得なかった事だ。


それに俺に対してもそうだ。


今まで、気軽に俺に話しかけてくる奴はもちろんの事、あんなに何でもポンポン文句を言ってくる奴は居なかった。ましてや俺を殴り飛ばす奴なんて・・・。





『もういいっつってんだろうがっ!!!竜一っ!!!』


穏やかに諭すような表情から一変、怒声を上げながら俺を殴り飛ばした佑の表情は、ひどく大人びていた。


突然の佑の奇行に放心状態だった俺だが、徐々に冷静になってくると佑の真意がようやく理解出来てきた。


佑の行動は奇行なんかじゃない。


止めてくれたんだ。暴走する俺を・・・。


怒りに任せて黒薔薇の秘密を・・・竜二はただの総長代行で真の総長は別に居る事ってを洗いざらいぶちまけちまおうとした俺の奇行をずっと諌めてくれて、それでも止めねぇ俺を殴ってでも止めてくれたんだ。


あのまま全部ぶちまけちまったら、きっと誰より俺自身が傷つくのが目に見えていたから・・・。


ボロボロになってまで美伊那を守り続けてきた竜二の苦労を誰よりも一番近くで見てきたこの俺が、自分の手で水の泡にしちまうところだったんだからな。


冷静になった後で、俺が後悔に苦しむだろうと分かってくれてたからこそ、止めてくれたんだ。


あんなに懐が深くて、俺を理解してくれる奴なんて他には居ない。


佑・・・お前はマジでスゲェよ。


・・・・・


まぁ、土佐犬発言も前代未聞だったがな・・・。


だが、今ではそんな、とぼけた所さえ愛しく感じる。


まっさらでスレてねぇ証拠だ。


佑・・・これから、少しずつ色んなことを教えていってやるからな。


佑の中にあるまっさらな紙が全て俺の事で埋め尽くされちまうように。


少しずつ、だが確実に、佑の心に俺の存在を刻んでいけたら・・・。


祈るように願いを込めて、瞳を閉じる。


佑・・・。


佑・・・。


愛しい恋人を思いながら、そっと再び目を開けると、【王★道】の小説。


それを切なげに見つめながら、誰に聞かせるともなく独り言の様にぽつりぽつりと感情の破片を漏らした。


「・・・王道の事をちゃんと理解した上で、もう一度、佑と話し合いたいなんて、さっきは偉そうな事言ったが・・・本当は、佑との気持ちの温度差を少しでも埋めたくて、焦ってるだけなのかも知れねぇ・・・。」


自嘲気味に小さく笑いながらため息を付くと続けた。


「・・・俺は寝ても覚めても佑の事ばかりなのに、きっと佑はそうじゃない・・・。恋人とは名ばかりで、佑の中の俺って親友のままなんじゃねぇかって時々不安になる時がある。ちょっと変わったところがあるとすれば、キスを交わすようになっただけで、後は一緒なんじゃねぇかって・・・。だが、俺は違う。確実に佑に夢中になって行ってるんだ。恋人になってキスを交わすようになって・・・あいつに触れれば触れるほど、どんどん好きになって行って、今では、恋しくて夜も眠れない。」


恋愛経験は人一倍豊富だと思っていたのにもかかわらず、初めて訪れる恋の痛みに胸を鷲掴みにしながら顔を歪めた。


「俺ほどじゃなくてもいい・・・。だが、せめて俺の半分だけでも・・・」


そう言って歯を食いしばると、暖かい手がそっと俺の肩に乗せられた。


「・・・祥子さん。」


熱に浮かせれた表情のまま、祥子さんを見上げると少女のような笑顔から一変、大人の女性の微笑を浮かべていた。


「大丈夫。竜一君が考えてる以上に、あの子は竜一君の事が好きなはずよ?だって、あの子との会話には大方竜一君が登場してくるもの。だから、もう少しだけ待ってあげて?きっと、貴方の気持ちを全部受け止められるようになるわ」


祥子さんの言葉は、何故か俺の心にスンナリ入ってきた。


きっと佑の母親として以上に、大人としての恋愛経験から言ってくれてるからなんだろう。


それを聞いて、俺は


「待ちますよ。いつまでも・・・」


穏やかに笑うことが出来たのだった。





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