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幸せは自分で掴むもの
3(竜一視点)




電車を乗り継ぎ、向かった先はこの前、赤飯を食ったばかりで記憶に新しい家。


いつもの様に呼び鈴を押すと、美人と呼ぶに相応しい女性が出迎えてくれた。


「思ったより早かったわね?」


「そりゃ、祥子さんの頼みなら急がない訳にはいかないでしょ?」


「ふふっ、うまい事言って・・・佑がらみだからでしょ?」


「っ!!」


「ウフフッ」


・・・祥子さんにはバレバレか・・・。


小さくため息を吐きつつ、苦笑いを浮かべた。


「早く上がって?」という祥子さんが奥へと消えて行くと、「おじゃまします」とだけ告げて靴を脱いだ。


勝手知ったる家だ。祥子さんが消えたダイニングへと足を運んでカウンターに座る。


すると、祥子さんが、カウンター越しに聞いてきた。


「キャラメル・マキアートとイチゴオレと・・・あっ、抹茶オレも「コーヒー、ブラックで!!」ウフフ、ブラックね?ちょっと待ってて。」


クッ、聞いてるだけで口の中が甘ったるくなっちまった。


早く苦いコーヒーで洗い流してぇ。


祥子さんも俺の状態が分かっているのか、クスクスと楽しそうに笑いながらコーヒーを出してくれた。


イタズラ好きな祥子さんにも困ったもんだと、それを受け取り、早速口に運ぶ。


それにしても・・・


「ねぇ、祥子さん。佑っていっつもそんなの飲んでんの?」


「ウフフ、前まではね?けど、竜一君にメタボ予備軍に入ってるって言われてからは、殆ど飲まなくなったわ。飲むとしたらカフェモカくらいかしら?」


コテンと首を傾げ、考えながら答えてくれた祥子さんに思わず突っ込む。


「カフェモカって、一緒じゃないですか!!」


あ、頭が痛くなってきた・・・。


確かカフェモカといや、エスプレッソ+暖めたミルク+ホイップクリーム+チョコレートシロップっていう考えただけで気持ち悪くなるような飲み物のはずだ。


それを未だに好んで飲んでやがんのか?あのバカは。


そりゃ痩せネェはずだぜ・・・。


呆れながらコーヒーを一口飲むと、祥子さんが自分の分のコーヒーを入れてからカウンターに回りこんできて俺のすぐ横に座った。


ちらりと横顔を見てみると、薄くマスカラをつけてるだけの長いまつげが瞬きのたびに揺れている。


近くで見ても、俺と同い年のガキが居るとは思えねぇ程、若く美しい人だ。


アイツもこの人の血を引いてんなら、絶対に綺麗なはずなんだ。


ぽっちゃりのせいでそれが70%OFFしちまってはいるが、痩せたらとんでもなく・・・。


そんなことを考えていると、隣に座った祥子さんが、不意に顔を上げて俺を見てきた。


「竜一君。さっきの電話の事だけど・・・。」


「あぁ、なんか俺に頼みがあるって言ってましたよね?なんでも言ってください。祥子さんの頼みならどんな事でも叶えて見せますよ。」


カウンターに頬杖をつきながら、祥子さんの顔を覗き込むように聞いてみる。


「ウフフッ、竜一くんたら・・・。ねぇ、私の事より竜一君の頼みってなんなの?」


「へっ?」


突然の申し出に、頼みがあると言ったとはいえ驚いて頬杖が外れる。


「私に頼みってことは、佑がらみって事よね?」


「っ――」


「佑とはどう?上手くいってるの?」


「っ!?」


「キス位はしたの?それとも・・・ハッ!まさか!!この前お赤飯ってもしかして!!」


「ちっ、違いますよ!!」


少女の様に頬を染めて、嬉しそうに驚いたフリをする祥子さんに慌てて否定する。


「え〜っ!?まだなの?」


心底残念そうに口を尖らせる、祥子さんに思わず詰め寄った。


「って言うか、何で知ってんすか!!」


俺と佑が付き合った事、なんでこの人にバレてんだ?


マズい!マズすぎだろ!?


自分の息子の恋人が、息子の親友だと信じて疑っていなかった俺で、しかも男で・・・。


ダメだ・・・。最悪の事態が待っているとしか思えねぇ。


さっきコーヒーを飲んだばかりなのに喉がカラカラに乾いてくる。


喉が張り付き、吐きそうになってくる。


色んな最悪の事態が頭の中を駆け回るも、結局最後に行き着くのは・・・。


目を閉じ、思いっきり息を吐き出す。


そして、カッと目を開けると、隣に居る祥子さんの目を見つめてはっき言おうと口を開いた。


「祥子さん・・・。俺・・・」


誰に反対されようと、佑とは絶対に別れない。そう言おうとした所で、祥子さんが有り得ない事を口にした。


「佑から聞いてるわよ?付き合うことになったんでしょ?」


「そうなんです・・・って、はぁっ!?」


「あの子、我侭で意外と頑固者だから、竜一君にはますます迷惑掛ける事になるだろうけれど、見捨てず可愛がってやってね?」


にっこり微笑みながらそういうと、お茶請けにと用意していたチョコレートを嬉しそうに食べている。


「・・・・・」


開いた口が塞がらないとはこの事だろう。


呆然としたまま、信じられないものを見るように祥子さんを見つめ続けていると、「ん?なあに?」と嬉しそうに聞いてきた祥子さん。


なあに?って・・・。


え?


どういう事だ?


「あら?もしかして反対するとでも思ったの?」


その言葉に、ハッと我に返るが、返事がしづらくて言葉を濁す。


「え?・・・あ〜」


「ウフフっ、反対なんてするはず無いじゃない。だって竜一君の気持ちよく分かるもの。あの子ぽちゃぽちゃしてて可愛いから思わず好きになっちゃうのも仕方無いわ。」


ウフフと笑う祥子さんに思わず頭を抱えた。


そ、そうだった。


この人は究極の親バカだったんだぁ!!


この子にしてこの親あり!


部屋中に大小問わず飾られている、自分の恋人の様々なポーズが収められた写真を見ながら脱力したのだった。



あ〜、なんか心配して損した・・・。


ヒクヒク痙攣する口元も気にせず、それならそれで好都合と開き直った。


「実は、そうなんです。この間の赤飯の日、俺と佑は付き合うことになったんですよ。」


「あぁ、なるほどね!そのお祝いにお赤飯とは、意外と渋いのね。竜一君!」


「い、いや、別に俺が赤飯を催促した訳じゃなくて」


「いいの、いいのよ?気にしないで。で?頼みって?」


俺が気にするって言う言葉をグッと飲み込んで、本題に入る事にした。


「祥子さんは、その・・・佑の趣味、知ってますか?」


「趣味?」


「はい。アイツが夢中になってる事です。」


「う〜ん・・・。あっ、そういえばあの子最近、ミカンの筋を如何に綺麗に取り除くかに興味が「う、ううん!そうじゃなくて」」


この人もかなりの天然だ。咳払いをして話を遮ってやった。


ってか、佑・・・お前そんなことに夢中になってたのか?


痛むこめかみを押さえながら、先を促す。


「えっと、例えばどんな本を読んでるんだとか、ジャンルは何だとか・・・。」


すると祥子さんは、分かったとばかりに顔を輝かせて、一言。


「ウフフ、竜一君が言いたいこと、分かったわよ?BL。ボーイズ・ラヴね?」




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あきゅろす。
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