prologue
それは死から始まる物語。
「あなたが生きてるって感じるのはどんなときですかね」
「なに、急に」
「さっき捲簾とそんな話になりまして」
「二人はどんなときなの」
「ンなもんナイショに決まってんだろ」
「じゃあ私も内緒だよ」
「オイオイ。お前が俺らに隠し事するなんてことあって良いわけねえだろうが」
「ああもううるさいな。じゃあアレだよ、煙草がおいしいと思ったときだよ」
「あははは」
「待ってなんで笑ったの天蓬」
「いえね、あなたはそう言う気がしてまして」
「期待を裏切らねえなあ」
「模範解答はなんだったの」
「それもナイショ」
「今吸ってるその煙草はどうです？」
「…………おいしいよ」
「二郎のお茶は優しいね」
「はっはっは、光栄です」
「お茶は淹れたその人の性格が出るんだよ」
「ほう。それは興味深いですな」
「観音の入れるお茶は黒く濁ってそうだよね」
「ぐつぐつと煮立ってるのでしょうな」
「飲んだらなんかジャリジャリしそう」
「湯飲みと茶碗の違いも分からないのでは？」
「黙って聞いてりゃいい度胸だなお前ら」
「だって観音淹れたことないでしょ」
「まあまあ、それは仕方在りますまい」
「最初で最後だぜ。待ってやがれ」
「……え？」
「……え？」
「……うわ、観世音菩薩が台所に立ってるよ」
「……なぜ茶碗に水を注いで直接火を」
「……首を傾げながら粉末状のものを手当たり次第に入れ始めたんだけど」
「……今珈琲の粉が入りましたな」
「おっと私軍議の予定を思い出したからもう帰らないと」
「逃げるおつもりで？今日は数万年に一度来るか来ないかの奇跡の日ですぞ？」
「いい格好じゃねえか」
「…………ああ。その声はバ観音か」
「バカはお前だ」
「……そうだね」
「……………………」
「……悟空は、無事かな」
「聞くか？」
「……いや、良いや」
「バカ共が」
「……そうだね」
「楽にしてやろうか？」
「……いいよ、このままで。ありがと」
「……………………」
「…………また、観音のお茶、飲みたかったなあ」
「お前泣きながら悲鳴あげてたろうが」
「……でも全部飲んだよ」
「……また何度だって淹れてやるよ」
「…………うん」
「…………………」
「…………じゃ、二郎に、よろしくね」
「ずいぶんと月並みだな。何をよろしくだ」
「…………ガラにもなく、情けない顔してる、露出狂神様を」
「……見えてねえくせに」
「…………うん」
「ありがとう」
「…………うん」
「とっとと、寝な」
「…………うん」
おやすみ。
それは死が生んだ話
気が遠くなるほど古いあの日々に誰より笑って、楽しんで、
あの日にちゃんと泣いて、もがいて、足掻いて、痛がって、怖がって、這い蹲って死んだ生き物の話。
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