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忘れたから教科書見せて







「かーぐら」



ひょっと視界に現れた胡散臭い笑顔。
ふらりふらりと反動で揺れる三つ編みもよく見慣れたもので、この後にどんな言葉が続くのかなんてこともすでに分かりきっている。
だけどそこは優しい妹神楽様、ちゃんと訊ねてあげるのだ。



「何アルか、兄ちゃん」

「教科書、持ってきてないんだけど」



(あれ、おかしい)
いつもと少し違う。
いつもなら、教科書忘れたんだけどって言うのに。
こんなどうでも良いような違いにも妙な違和感を感じてしまうのはきっと、その言葉が私の日常に組み込まれてしまっていたからなのかも。

…そこまで考え至ると、何故だかどうも悔しくなってきた。



「だから、見せて」



にこっと笑顔が深まった。

いつもなら、ここで私は大袈裟に溜め息を吐いて仕方ないアルなーと言い見せてあげるのだがしかし。
今日は兄ちゃんも台詞を変えてきたのだ、せっかくだからもやもやと悔しい気持ちを乗せて私も変えてしまおう。

うん、良いコレ。



「嫌アル、今日は見せてあげないネ」



つん、とそっぽを向いてみる。

腕を組みつつちらりと様子を窺えば、兄ちゃんは珍しく目をぱちくりさせているもんだから悔しさが消えてく気がした。
思わずにやけてしまいそうな自分を必死に抑え込みながら。



「何だよ神楽、反抗期?」

「違うネ、ただ嫌になっただけヨ」

「ふーん、何で?」

「何でって…大体忘れたならまだ分かるけど持ってきてないってどういうことアルか!絶対やる気ないダロそれ!」

「殺る気ならいつでもあるよ?」

「誤字ィィィ!」

「…だから見せてくんないってワケ」



ひや、

今兄ちゃんと私が居るここだけ、温度が下がった気がした。
いや、これは気のせいじゃない。
おそるおそる顔を向ければ、



「ねぇ、神楽」

「何…アルか」



いつもよりワントーン低い声、
笑顔なもんだから反って怖い。



「今日、忘れたじゃなくて持ってこなかったって言ったのには理由があるんだよ」

「……どんな?」

「神楽が、どんな反応するのか見たかった」

「…………それだけ?」

「それだけ」



何じゃそりァァァア!
叫びたくなるのは我慢して、相変わらず飄々としているバカ兄貴を睨む。
ちゃぶ台があったら迷わずひっくり返しているに違いない。



「まさか嫌だと言われるとは思わなかったんだけどね…もしかして、好きな奴でも出来た?」

「は…?」

「兄ちゃんと、机くっつけてるの見られたくない奴でも出来たの?」



(寒い、寒いヨ)
まだ秋なのに、真冬並みの寒さ。
その原因は間違いなく目の前の兄貴からなのは分かるけど。



「そっそんな奴居ないネ!
変な勘違いは止めるヨロシ」

「そう?でもそういう奴、出来たら兄ちゃんに教えてよ」

「…何でヨ」

「大丈夫、抹殺しに行くだけだから」



(何が大丈夫?)
思わずツッコミたくなるけど、何か目眩がしてきたので止めておく。
万が一そんな人が出来たとしても、絶対に言わないという決意も一緒に。



「教科書、忘れたんだけど見せてくれるよね?」



(…あ、戻った)
何故かいつもより強制的な感じを受けるのはどうしてなのかは一先ず置いておく。



「……仕方ないアルなー」



でも結局こうして見せることになるんだから、今のところ好きな人なんて出来そうにない。

ありがと、と普通の笑顔で言う兄ちゃんと机をくっつけるこの瞬間が、何だかんだで結構気に入ってしまっているから。

(あれ、そういえば寒くなくなった)







(だって、いつでも神楽の一番近くに居るのは俺って決まってるから)






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素敵なお祭りに参加させていただき、ありがとうございました!




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