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DREAM‐KYO‐
俺様ルール

あの後私は逃げるように帰宅してしまった。

『ノリで男に乗るんじゃねぇ』

あの顔は、マジだった。
何がマジだったのかと聞かれれば言葉に詰まるが、とにかく色々マジだった。

『俺はお前が好きだ』

『俺と付き合う気になったか?』

――先生はどこまで本気なんだろう。

『名前』

先生に名前で呼ばれた、その声がいつまでも頭の中でリピートされている。
変なくすぐったさを感じながら、その日は眠りに落ちた。



また朝が来て、全身に疲れを感じながら正門をくぐった。
昨日の行為が今日に響いているのもある。
それよりも、まさか夢にまで先生が出てくるとは思っていなかったからだ。
何を喋ったか、何をしたかまでは覚えていない。
何も喋らなかったかもしれない。
何もしなかったかもしれない。
覚えているのはただ一言、
『名前』
私の名前を呼んだこと。

気が付くと目の前には3ーAの教室。
いつ靴を脱いだのかすら記憶に無い。
慌てて足元を見ると、ちゃんと履き替えてあった。
ホッと胸を撫で下ろす。

「おい」

「ひっ!」

突然背後で声がして振り返ろうとするが、嫌な予感がしてスローモーションになる。
予感の通り、そこに立っていたのは草薙先生だ。
口元がうっすら笑っている。
いや、あの、すげー恐ぇんスけど。

「おはよう名字ー」

「お、は、お、おはよー、ござい、マス」

いつも通り名字で呼ばれ、なんだか拍子抜けしたが、そんな余裕は一瞬で消える。
自然にどもってしまう声でなんとか挨拶すると、急にズシッと肩に重さが加わった。
私の両肩をがっちり掴み、少し腰を落として目の高さにあわせる。
表情は変わらず、何か企んだような目でじっと見つめるので恐怖が増す。

「名字」

「な……なんですか」

「お前、配布物係はどうした」

ぐわん と脳に衝撃が走った気がした。
しまった!なんてことだ!
昨日のことでただでさえヤバイのに私ってばなんということを!

「あ……わ、忘れてました……スミマセンごめんなさい」

「ああ、んなこったろーと思ってたぜ。思い出したんならさっさと職員室来やがれ」

「ハイ……」

恐ろしく『教師』から掛け離れた言動に、絶望と諦めのようなものを覚えた。
ずるずると、やはり私は引きずられるように職員室へ連れていかれた。





「ん、じゃーコレ頼むな」

ポン、と手の平に紙切れが渡される。
昨日の例の紙切れと同じくらいのサイズだ。
他には何も渡されない。
この紙切れ一枚、それだけ。
チラッと先生を見ると、何食わぬ顔でパソコンをいじっている。
意識を紙切れに移す。

『放課後 国語科準備室』
書かれていたのはこれだけだったが、これにどれだけ深い意味があるのか私にはわかる。
昨日に比べだいぶ雑に書かれているが、そんなことはどうでもいい。
素早く紙を折り畳む。
心臓が高鳴り始める。

「……配布物、無いじゃないですか」

「それ」

「いやいや、配布しちゃ駄目でしょう、これは」

「無くても毎朝来るのがお前の仕事だろうが」

パソコンの画面(どうやらプリントを作成中らしい)をなんとなく見てみると、『自習プリント』の文字がでかでかと入っていた。
つい最近も自習だったな。
このプリントをいつ使うつもりなのかはわからないが、まさに俺様ルールのこの人にかなうはずがない、そう理解し反論する気力は失せていった。

「……そうですね、すみませんでした。じゃあ失礼します」

「おう」

紙切れをポケットにしまい、出口に向き直る。
足を踏み込むのと同時に
放課後まで待ちきれねぇな
と小さく聞こえた。
私は立ち止まることができなかった。

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あきゅろす。
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