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DREAM‐KYO‐
ぎりぎりギシリ

「な、何やってんだよお前……気をつけろ」

「ご、ごめん」

混乱した頭でなんとか事態を要約しようとするが、難しい。
この上なく難しい……
いや、違う。
難しいわけではなく、認識したくないだけだ。
出てきた答えは「階段を踏み外して落ちたらヒロキが受けとめてくれた」ということ。
あまりにもシンプルだ。
さあこの場をどう切り抜けたものか。
私が真っ先に考えたのは逃げる方法だった。
ただでさえ顔のあわせ辛い相手だ、顔の筋肉が張ること張ること。
逃げたい、しかしこれは本当に難しい。

「……ありがと、私、帰る」

頭をフル回転させて絞り出した言葉がこれだ。
情けないけど、もう脳が働かない。
時間を早回ししたい。
恩人の顔も見ず背を向ける。

「待てよ!」

ぐんと後方に肩が吸い寄せられた。
強く引かれたブラウスに、首が一瞬圧迫される。

「お前さっき何て言った!?」

飛び込んできた怒声に足がすくんだ。

――『草薙先生!』

自身の発言のせいだということこそ理解していながら、あまりに必死な問いに圧倒された。
そして今度こそ背中を打ちつけられ、痛い。
怒りのこもった指先に両肩が締め付けられ、痛い。
と言うか、こわい。
日の当たらない階段の踊り場 壁はひんやりと冷たかった。

「……ごめん」

「ふざけんなよ、おまえ」

わかってます。
私が悪かったです。
もう家に帰りたいです。

「なんなんだよ、そういうことなのか?」

「……?」

「好きな奴って草薙のことだったのかよ」

「え、ええ!?」

つい素っ頓狂な声を出してしまった。
不本意 不本意だ。
ヒロキのイライラが両肩から伝わってくるようだ。
確かに私は別れを切り出す時に『好きな人ができた』と言った。
でもそれはただ理由付けに考えただけのもので、本当は今現在は好きな人なんて――

「否定できんのか?」

「――ぁ、私……」

「俺はまだ名前が好きなんだよ!」

「……!」

「だからムカツク……っ」

自己嫌悪した。
私という人間は、なんて嫌な奴だろう?
私はこんなにも、愛してもらっていたのだ。



「悪ぃけど、そういう喧嘩は校外でやってくれねーかなぁ」

割と近くで、声がした。
どうして気づかなかったのだろう。
目の前の上り階段 壁にもたれつつ、ニイッと笑っている。
いつもの草薙先生。

「……いつからいたんすか」

心底忌々しそうに、ヒロキは彼を睨みつける。

「たった今だよ」

ピクリとも表情を崩さない。
その声も顔も、普段通り。
生徒のくだらない雑談につきあう、いつもの草薙先生のそれだった。
私は何故か、自分の心が軋むような音を聞いた、気がした。

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