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DREAM‐ASH‐
僕と君のベタベタな、でもどこか違う…

「名前、ボクと君が出会ったときのこと、覚えてる?」

君は、
んー
とそっけない返事をする。


冷たい女だ と、思う。


「今日と同じ、まったく同じシチュエーションでサ」

君はまた、
んー
とそっけない返事をする。


冷たい女だ と、思う。


「君って、よく恨みを買うようなコトしてるの?」

君は怪訝そうな顔をして、目だけボクに向けて、
してないよ
と不機嫌そうに言う。


……可愛い女だ と、思う。


「ボクが来なかったら……どうするつもりだったのかナ」


自分でもゾッとすることを言っている。
本当に、どうするつもりだったんだろう。
君は、
……ごめん
と、ちょっと悲しそうに言う。
続けて、小さく
ありがとう
と、やはり悲しそうに微笑んで言う。


……綺麗な女だ と、思う。



名前に会ったのは今から約1ヶ月前のことだ。

その日ボクは街を歩いていた。
本当は、お気に入りのケーキ屋に行って、これまたお気に入りのザッハトルテを買うつもりだった。
しかし生憎売り切れ。
人気店の人気商品なんだから仕方がない、でも諦め切れずに
エーッ無いのー!?ヤダー!
と駄々をこねて店員を困らせてきたところだった。
そんなこんなでボクは不機嫌さを露にしながら街をぶらついていたのだ。

大通りを歩いていると、どこからか汚い罵声が聞こえてきた。
通りは人が多く、本当に微かだったのだが、その声は気が立っているボクをさらに腹立たせた。

声は通りに繋がる細い道から聞こえてきていた。
人通りは極端に少ない。
車の音や通行人の声にかき消され、大概の人間はその汚い声に気付かないらしい。
ボクは『気晴らし』にその汚い声の主たちに制裁を下してやろうと路地に入った。

近付くにつれ、オメコだのチンポだの突っ込んでどーしてやるだのと聞こえてきたので、複数の男に女性が囲まれていることはわかった。

ターゲットまで距離残り約10メートル。
女性の姿はよく見えない。
だが声が小さく聞こえた。
ズザッという音が聞こえたということから、押し倒したな、と推測した。

ターゲットまで距離残り約3メートル。
男の一人がやっとボクの存在に気付き、仲間に おい…… と声をかけた次の瞬間。
ボクはとりあえず一人を右足で軽々と蹴りあげ、かかとで吹っ飛ばした。

驚いて掴み掛かろうとする男たちを、ボクは容赦なく『焼いた』。
正確には『焦がした』のだけれど。
殺したらさすがにやばいからね。
自慢の『緑色の炎』で、奴らに制裁を下してやった。

とりあえずやるだけやった。
気が済むまでやった。
めちゃくちゃに罵ってやった。
後が面倒だから完璧に口止めもした。
奴らは スミマセン、スミマセン と繰り返して逃げていった。

路地に残ったのはボクと囲まれていた女性、二人きり。

ボクが

「大丈夫だった?」

と言うと、彼女は、

「大丈夫、ありがとう」

と言って、黒く、自身有りげに、笑った。

色はどうあれ、曇りのない笑顔、だった。


ボクは彼女の名前を、年齢を、電話番号を、メールアドレスを、住所を……
聞いた、色々聞いた。
ボクも彼女に名前を、年齢を、電話番号を、メールアドレスを、住所を……
教えた、色々教えた。

彼女の名前は名字名前

ボクの名前はアッシュ・クリムゾン



ボクは、最初に交わしたあの一言だけで

名前、君に惚れていた。

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あきゅろす。
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