愛別離苦(藤本獅郎)
「雪、燐。
あんたたちはいつまで寝てるの。」
優しい朝日を遮っているカーテンを素早く開けて息子達に声をかける。
唸りながらも起きてきてくるのは雪。
「おはよう、母さん。」
「おはよう、雪。」
雪の頭を撫でながらこんもり盛り上がった布団をじとりと見つめる。
起きる気配はない。
「ったく、燐は相変わらず寝起きが悪いねぇ……
そうゆうところは獅郎さんそっくりなんだから。」
そんな燐の様子が誰かさんとかぶって笑みがこぼれ落ちた。
不思議そうに私を見上げる雪を抱き上げて、その後眠ったままの燐を抱き上
げた。
子どもとは言え、寝ている人を抱き上げるのは少しばかりきつかったが、私はこれでも祓魔師だ。
子どもの一人や二人ぐらい軽いもんだ……多分。
結局燐を起こすのに手間取ってしまった。
といっても燐は相変わらず私の腕の中で寝息をたてているので起こしたとは言えない訳だが…
私は急いで朝食の準備をして燐や雪を待っているであろう獅郎さん達の元へ向かった。
「獅郎さん、おはようございます。」
「おはよう、神父さん。」
「おはよう!って燐はまだ寝てんのかぁ?」
獅郎さんは呆れた顔をしていたけれど、私は獅郎さんにそっくりだと思った。
「燐、ご飯だよ。」
「燐、起きろ!」
獅郎さんは私が抱いていた燐を自分の方へ抱き寄せてペシペシと軽く頬を叩く。
「うーん…飯…?」
「お前は食い意地はってんなぁ!」
にゃははと笑う獅郎さん
状況がよくわからなくてぽかんとしている燐
私に抱かれたままニコニコとしている雪
皆が可愛くて頬の緩んだ私
楽しい時間だった。
愛別離苦
(覚めない夢を信じたかったよ、獅郎さん。
あなたがいない世界なんていらない。
私は夢の途中に留まっていたかったんだ。)
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愛別離苦
仏教で、八苦の一つ。愛する人と別れる苦しみ。
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