勝って兜の緒を締めよ(紀田)
ついてない。
大好きだった彼が他の女と会っているところを目撃してしまった。
彼に問い詰めたら二股どころか五股していたらしい。
そんな奴に振り回されるなんてごめんだ。
それに五股野郎からフラれるなんて私のプライドが赦さない。
だから私からフってやった。
イライラとしているのを隠そうともせずに池袋の街を歩く。
私がこんなにイライラしていても、街は全く変わらない。
池袋最強と新宿の情報屋の凄まじい喧嘩(戦争とも言えるかもしれない)だっていつも通りだ。
街の中を何をするわけでもなく歩いていると茶髪の青年から声をかけられた。
「そこのおねーさんっ。
随分機嫌が悪いみたいだけど俺とお茶しませんかっ?
悩みでも愚痴でもなーんでも聞きますよ。」
ナンパだ。
普段ならそんな誘いにのることはないが、今はこのイライラを誰かに話したかった。
肯定の返事をすれば青年はとても嬉しそうに目を輝かせた。
その表情が可愛くてイライラは一瞬どこかへ消え去り、笑みすら零れた。
「でさー、あいつ五股もかけてたんだよ。
信じられないでしょ。」
青年(紀田正臣くんという名らしい)に話終えると同時にはぁ…と溜息をつけば楽になった気がした。
「嘘だろー信じられねー男っすね、そりゃ。こーんな綺麗なおねーさんがいるにも関わらず他の女の人と遊ぶなんて。」
大袈裟に身振り手振りを交えて相槌をうってくれる正臣くんに救われた。
年下に救われるなんて恥ずかしいけれど、そんなのどうでもよくなった。
正臣くんはいい子だ。
他人の私の愚痴を嫌な顔一つせずに聞いてくれたし。
御礼を何か考えた方がいいのか、なんて考えていると私を呼ぶ声が聞こえた。
「○さん、○さん。聞いてます?」
「え、あ、と……ごめん。」
「○さんは今フリーですよね。
じゃあ俺と付き合いませんか。」
勝って兜の緒を締めよ
真剣な瞳に思考回路は奪われた。
油断は禁物だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
初紀田くん夢。
訳が分からない…。
「勝って兜の緒を締めよ」は油断大敵と似た意味です。
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