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そんな弥吉に、榊は辟易とした顔をしていたが、ふいにまた弥吉が暴れだした。
今までしがみついていた榊を突飛ばすと、今度はまるで獣のような唸り声を上げながら、榊に飛び掛かって来る。

「旦那っ」
慌てて駆け寄ろうとした牢番の目の前で、榊は何を思ったのか、いきなり脇差しを抜くと、一刀の元に弥吉を斬り捨てた。

あっという間の出来事であった。

呆然としている牢番に榊は「こんなものを隠し持ってましたよ、少し斬られてしまいました」と、小さな小刀のような物を見せる。

「あ、な、何で…ちゃんと調べた筈…、榊様、け、怪我は…」
青くなる牢番に「いやいや、こんなに小さい物だったら見つからない所に隠すのは簡単です。あなたのせいじゃありませんよ。怪我もほら、大したことありません」と、手の甲に真一文字に付いた斬り傷を見せる。
血は流れているものの、そんなに深い傷では無さそうだ。そして「あなたが責められないように、皆さんには私が口添えしてあげましょう」と、榊は笑ってみせた。

そうして弥吉は、まだ調べも済まないうちに、榊の手によって命を落としたのであった。

「ふうん…」
話しを聞き終わった風斎は「まぁ、死んだもんはしゃあないな」と、人事のように言うと、湯飲みの酒を空けた。

「確かにそうだ。しかも小刀を振り回したとあっちゃあ斬り捨てられても文句は言えねえ。だがな、ちゃんとした調べも出来んうちに死なせてしまったのが何ともな…」
そう言って新衛門も酒を煽る。
「まぁ、だが、大概の亊は分かっていたし、弥吉が下手人なのは間違いの無い亊だしな。それにお里の嫌疑も晴れた。後味は悪いが解決は解決だ。結果、良しだ」
そう言って、新衛門は腰を上げた。

「帰るんか?」
尋ねる風斎に「ああ、お春が心配するといかん」そう言って、新衛門は三和土に降りると引き戸を開けた。

そして、つと振り返ると「風斎、色々ご苦労だったな、礼を言う」と頭を下げた。

「仕事や」
そう言って風斎はニヤリと笑うと「礼金は弾んでもらうで」と、ヒラヒラと手を振る。

「仕事か。いい仕事をしてくれるよお前は。金は近いうちに届けるさ」
そう言って新衛門は笑うと、お春の待つ家へと帰って行った。



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