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清吉の部屋へと入った風斎は、先刻と変わらずへたり込んだまま、腑抜けのようになってる清吉に「清吉さん、アンタ大丈夫か?」と、声を掛けた。

清吉はゆっくりと顔を上げて風斎を見ると「風斎さん…お里は、お里はどうなっちまうんでしょうね」とまるで他人事のように訊ねてくる。

「アンタしっかりしぃや。そんなんじゃお里はんに嫌われんで」
いかんな、と、風斎は思いながらも笑って言う。

「アンタなんかに…」
清吉は急に据わった目をして、下から風斎を睨め上げながら言った。
「アンタなんかに何が分かる?え?お里が今どんな思いでいるかと思うと俺はたまんねぇ!そして何も出来ねぇ自分が死ぬほど情けねぇ、お里に何もしてやれねぇ自分がたまんねぇんだよ、俺んとこに来なきゃこんなことにはならなかった。俺があん時送って行ってりゃ旦那さんだって死ななかったし、お里だってこんなことにならなかった。アンタに分かるか?え?所帯も持たずに毎日ふらふらしてるようなアンタに分かるかっ!」

普段は穏やかな清吉がまるで悪鬼のような顔で風斎に噛み付く。

「えらい言われようやなぁ」
そう言いながら風斎は清吉の前に座ると、清吉の肩をぽんぽんと叩いて言った。
「清吉さん、今回の一件はアンタのせいちゃうで?たまたまそういう巡り合わせやっただけや。そら、あんま良うない巡り合わせやけどな。それからなぁ、お里はんの亊はそないに心配せんでもええ思うで。時間はかかるやも知れんが絶対帰ってくるでな」

そんな風斎の言葉に清吉は大きく息をつくと「すみません、取り乱しちまって…俺…もう何が何だか…どうしたらいいのか分かんなくなっちまって…」
と、頭を下げた。

「かまへんよ。アンタに冷静でおれ言う方が無茶やでな。それよりアンタ湯沢屋の葬式もあんねやろ?早う行かんと」

風斎の言葉に清吉はハッとしたように、慌てて着物を出して風呂敷に包むと、既に戸口の前で出ていこうとしている風斎の背中に言った。
「風斎さん、俺、風斎さんに石榴ちゃんがなつくの分かる気がします」
そう言って頭を下げた。

風斎はニッと笑うと
「気張りや」
そう言って自分の部屋へと帰って行った。



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あきゅろす。
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