ん それから一月ほど経った頃、町外れで、恐ろしく惨たらしい土左衛門が上がった。 どこの誰だか判らない程に顔は腫れ上がり、目は潰され、餓鬼のように痩せ細った身体は傷だらけで、骨も数ヶ所折れている。 その凄惨な土左衛門が、ひょっとしたら、あの伊助ではないか?と、なったのは、腕にあった二本の入れ墨、そして、伊助がそうであったように左手の親指がなかったからである。 しかし、誰がどう見ても、その遺体は伊助には見えなかった。 それ程、その姿は変わり果てていたのだ。 だが、呼び出された伊助の女房が間違い無いと言った。 流石、あの伊助の女房である。 そんな惨い亭主の遺体を見ても、びくともせず、だが、目からは大粒の涙をはらはらと溢し、愛おしげに頬を撫でながら「うちの人です。間違いありません」と、きっぱりと言ったのだった。 伊助が何故そんな惨たらしい殺され方をしなくてはならなかったのか? それは多分、あの竹中の死と無関係では無いのであろう。 そんな中、伊助の葬式は、身内だけでひっそりと取り行われた。 そして、とある夕暮れ時……、長身の男が、ある決意を持って、その墓前に花を手向け、手を合わせていた亊を知る者はいない。 その数ヶ月後、老中片倉正重の息子、片倉義重は、お白州に上げられたのであった。 三の巻 〜完〜 [*前へ] [戻る] |