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一方、月砂と別れた新衛門は、その足で奉行所へと戻っていった。

今日も、調べものがあると言って、奉行所に居る斎藤と相談する為だ。

そうして、奉行所へと戻った新衛門が、ぐるりと頭を巡らせると、斎藤は自分の席で、何やら熱心に一冊の綴を読んでいる最中である。

「斎藤さん」
声を掛けた新衛門に、斎藤は片手を挙げて応えると、顔は書面から離さずに言った。

「ちょっと待ってくれ、キリのいい所まで見てしまうから」

新衛門は頷くと、斎藤の斜向かいに座って待った。

暫くして顔を上げた斎藤は、開いていた綴を閉じると、瞼を揉むように押さえながら言った。
「待たせたな、で、どうした?」
朝から今まで、ずっと調べものをしていたのだろう、斎藤の目は少し赤らんでいた。

「ええ、実は……」
新衛門は、月砂から仕入れた情報を小声で斎藤に告げる。
まだ何一つ証の無い亊を、誰にでも聞かせる訳にはいかなかった。

新衛門の話しを聞いた斎藤は、ううむ……と腕組みをしながら唸った。

「田村の穀潰しと佐々木の三男坊か……二人共、あんまり品行方正とは言えん輩だな。特に田村はとかく色々と噂のある人間だ」

「ええ、田村は私らが拾い上げた人間の中にも含まれてます。あの月砂の情報は、まず間違いがありません。となると、二人には、急ぎ手下を張り付けた方がいいんじゃねえかと思いましてね」

「確かに、あの女が調べてくる亊に偽りや穴はねえな。よし、お前の言うように二人に張り付いてみるか」

斎藤はそう言うと、自分の手下の中でも、特に張り付きの得意な岡っ引きを呼び戻すべく使いを出した。
今現在は、別の人間を見張らせていたからだ。

そして、新衛門はというと……、同じように熊を呼び戻した。

何故熊なのか?
確かに熊は、決して頭が良いとは言えないし、間が抜けていて時折とんちきな亊もやらかすのだが、気性は真っ直ぐで、間違っても手抜きなどはしない男だ。
そして何故か、妙に勘の鋭い所があったりする。
だからこそ、新衛門は熊を一の手下として使っているのだ。

そうして、程無くすると、熊と斎藤の手下である弥七が連絡を受けて、奉行所へとやってきた。

新衛門と斎藤は、二人それぞれに、これからは佐々木源之助と田村正之信に張り付くよう言いつけた。
そうして、熊は佐々木源之助に、弥七は田村正之信に張り付く亊になったのである。

「しかし……旗本となると、色々厄介ではありますね」
新衛門は、二人を見送りながら言う。

「そうだな、迂闊には手出し出来ん相手だ」
斎藤は頷いた。
「二人が何か見つけてくれたら、まだ動き易いんだがな」
そう斎藤は憂い顔で呟くのだった。



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