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そうしてツネと一緒に屋敷へと帰ったお春であったが、余りにも尋常ではない出来事に、身も心も疲れ果てていた。

ツネに支えられるようにして、自分の部屋へと向かうお春を、座敷から呼び止める声がする。

「帰ったんか?」

ひょいと座敷から顔を覗かせた風斎は、右手に飯茶碗を持ち、左手には箸を持ったままである。

「何や、その顔は。ぼろぼろやないか。早う顔洗うてこい。別嬪さんが台無しやで、ほんで飯食うぞ、飯。」
そう言って風斎は、箸を持った手をひらひらと振る。

「風斎様、お行儀が悪うございます。それに、お嬢様はお疲れなんです。少しはお気遣い下さい」
ツネは自分の体で、お春を庇うようにして、風斎の前に立ちはだかる。

「おお恐っ。せやけど、ホンマにぼろぼろやないか。目は真っ赤やし、瞼は腫れ上がっとるし、頬っぺたはガサガサやし、鼻の頭も真っ赤や」
そう言って、からかうように笑う風斎に、ツネは噛み付かんばかりの勢いだ。

「風斎様っ、貴方様にはお嬢様をいたわるお気持ちは無いのでございますかっ、見ての通り、お嬢様はお疲れなんです」

まだ詳しい事情は分からないツネではあったが、お春の身によからぬ亊が起きたことくらいは分かる。
お京の忘れ形見であるお春に、一生仕えようと決めたツネである。
お春の亊は何よりの一大事であった。

「アホか。疲れとったら飯食わんでええのか?人間、飯食わなアカンねん。飯食わんと死ぬねんぞ?大事なお嬢さんが死んでもええのか?」

「そんな大層な…一食ぐらい食べなくても人は死んだりしません」

呆れたように言うツネに「アホなこと言いなや、ワシ一食抜いたら死ぬで?ああ、間違いなく死んでまう」と、風斎は真顔で、さも恐ろしそうに言う。

そんな風斎とツネのやり取りを見ていたお春は、思わずくすりと笑った。

「お、笑たな?ええこっちゃ。ほな、早う顔洗ってこい。一緒に飯食うでぇ、今日の煮物ごっつう美味いでな。泣いたら腹減ったやろ?腹いっぱい飯食え。人間飯食わんとアカン」
風斎はそう言ってニッカリと笑った。

「はい。アタシ、顔洗って来る。おツネさん、ご飯の用意しといてね」
お春はそう言うと、裏の井戸へと向かった。

「お嬢様…。はい、はい、たんと召し上がって下さいませ。すぐに、すぐに用意致します」
おツネは、顔をくしゃくしゃにしながら勝手へと向かった。

「おツネさん、ワシもお代わりやぁ」
ツネの背中に言う風斎に「冗談はおよし下さいまし。どれだけ召し上がられるおつもりですか。旦那様とお嬢様の分と炊いてたご飯がもう無いではありませんか」と、ツネは呆れたように返事をすると、風斎の余りの食欲に炊き足した釜を隠さなくては…と考えていた。



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