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不敵に笑うジョーカー
V.不敵に笑うジョーカー




漆黒の闇の中にそびえ立つ、一棟の巨大なビル



その大きな建造物は、まるでどっかのSF映画の宇宙船のように虹彩色のネオンを放ち

その夜の暗闇を切り裂いて、俺達を待ち受けていた。








「準備はいいか」


俺は緊張に渇いた喉を ゴクリと唾液で潤しながら問う。



「その台詞、そっくりそのままお前に返すよ」


目前に控える3人のメンバーが、明らかに緊張してる俺に苦笑して言った。





「バ…バカ!緊張なんかしてねぇよ!」


苦し紛れにそう答えると、俺は最終チェックとして

その白いリムジンのスモークミラーに自分を映して、ネクタイの緩みを締め上げた。





白いスーツに身を包んだ俺…うん、イケてる。






しかし



「オイ、そろそろ時間だぞ。見惚れてんなよ」


そんなからかいの声と共に、メンバーに景気づけにポンッと背中を押された。






「…分かってる、行くぞ」


そして

何だかんだと、そのラフな激励から気合いを入れる事が出来た俺は大きく息を吸う。




そして


覚悟を決めるように、胸元に隠したコルトパイソンの感触を確かめると…

キッとその視線をあげて、ビルの入口に向かって歩き出す。




迷う事なく、真っ直ぐと。





そのビロードの赤絨毯を通り、厳ついボディーガードを横目に

…俺達は、ついにその‘現場’へ到着した。








「…るせぇ」


その建物の中に入った途端、鼓膜が張り裂けそうなくらいの大音量に…思わず耳を塞ぐ。



中には、その広いホールを それこそ埋め尽くす程の人・人・人


溢れ返った人々は、派手な音楽とお酒

そして 薄い霧が出来る程の煙い葉巻や煙草を吹かしながら、その享楽に耽っている。



外なんかより何倍も輝かしいネオンがそこにはあり、飛び交う怒号と驚喜の声



世界で一番豪華なカジノだ。









「ターゲットは?」


ルーレットやスロットに興じる人々を横目に、俺達は迷う事なくそのホールの最奥へと向かう。




「ああ、どうやらブラックジャックのジョーカー役として登場予定らしい」




「ジョーカー?」


メンバーの一人が答えた、その言葉に俺は首を傾げた。




「そう、客を装ってディーラーに有利になる様に 色々工作する役の事さ」



「…要はイカサマか」


ふーん…と、鼻で軽く返事をして、俺は周囲の様子を観察する。






「ヒドいな…」


そして、思わず小さくそう呟いてしまう。



周りにいる男も女も、皆酒に酔いつぶれて ほとんど真っ当な金銭感覚なんかでゲームに興じていない。



…まぁ、きっとそれもハウス側の策略だろうが。






「ねぇ、お兄さん…私が勝たせてあげるから、一緒にゲームしない?」



「結構だ」


わざとらしく‘しな’を作り纏わりついて来た女に、俺は見向きもせずあしらう。



…ああゆう、ケツが軽そうな女は嫌いだ。





「ふ〜ん…お兄さん、冷たいわね」


そう言って、真っ赤なルージュをひいた唇をそのエロティックな舌で舐め上げ

無駄にでかい胸を強調して来る。





「うおっ!ヤッベ…なぁ、リーダーちょっとだ……」




「アホ!そんなの任務が終わってからにしろ」


まんまと甘い罠にハマりかけたメンバーの一人の頭を殴り、正気に戻らせる。






そして、何となく考える。



唯一、俺だけが見ていないターゲットの顔写真…

何人もの富豪をたらし込んで、その財産を掠め取って行く悪女なら……きっと、さっきみたいな“ケバイ”女に違いない。




あー…大体予想がつくな。



きっと、何百個のデンデンムシを髪に巻き付けてる様な くるくるヘアーに

本当の瞳が見えなくなる程、黒く塗りつぶした目元


それから、無駄に強調した胸の肉の塊に……キスしたら、ベットリつきそうな口紅。





「……」


その全てを想像して…俺は激しい寒気に襲われた。





…そんな女、この世から一人くらい消えたって構わないだろ。




「ほら、あそこだ。この店で一番人気のブラックジャックの場所は」


そう言って、下調べを終えていたメンバーが指差したのは

成程、このカジノで一番人気だと言ってもいい程の 人だかりが出来ていた。






「チッ…予想以上の盛況振りだな」


その人並みを強引にかき分け、はたまた…時には、生札をちらつかせて俺達は上手い事自分達の定位置を確保する。





「勝負は負けたフリしてる方がいいんだろ?だったら、リーダーにお任せしないとな」



「………」


そう言って、肩にポンッと置かれた手を乱暴に振り払いながら、俺はベッド数を決める。



…俺のギャンブル弱さが、まさかココで活用出来るとは思わなかったが。
















「う…っわ、お前マジで弱ぇんだな」



ゲームを開始してから15分



物の見事に負け続けてる俺を見て、メンバーが本気で驚いていた。





「うるさいッ、計画通りなんだからいいだろ!」


悔し紛れに小声でそう返しながら、俺は少し不貞腐れ気味にまたベッド数を決める。



しかし

いくら任務とは言え…やっぱり、負け続けるのはいい気分はしなかった。











すると



「リーダー、あの女が来たぞ」


何敗目を確信した頃だったろうか……


不意に耳元で囁かれたその言葉に、俺の心臓は飛び上がった。



それに伴って、周囲がザワリとどよめきたったのが分かった。


「来るぞ、覚悟しろ」




「…お…おおお、おう」



ヤバイ、俺の心臓落ち着け!!



緊張する心を誤魔化す様に、俺は小さく深呼吸をする。





そして、覚悟を決める。





さぁ…来い!どんな女だ!?来た早々、俺にしなだれかかって甘い声を出すのか!!?

ははん、甘いな!俺はそんな陳腐な手にはかからん!!

例え、その顔立ちがどんなに整ってようと、その体がどんなにグラマーだろうと…














「負けてるの?」




正直、緊張のあまりプチパニックに陥ってた俺は

何の心の準備もないまま、その声に導かれて顔を上げてしまった。






「へ…?」



そして

次に俺の口から漏れ出たのはそんな間の抜けた声。







「私が、勝てる秘密教えてあげる?」



黒い瞳が小動物みたいにまん丸くてつぶらだった。


そして、今にも倒れそうな程に、華奢で色白な体…

その俺の半分くらいの大きさしか無さそうな、小さな顔にあるのはぷっくりした薄づきの唇


最後に、シャンプーのいい香りを靡かせ纏うのは…漆黒でサラサラの髪の毛







……俺の想像と全く違っていた。








そして


そんな予想外の出来事に、ポカンと呆けるしか無かった俺に…

女は、不敵な笑みを浮かべたままこう言った──…






「ゲームは、まだ始まったばかりよ」






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