不敵に笑うジョーカー
Ⅱ.これはただのゲームさ
「………何で、ココにいる」
俺はピクピク引きつる コメカミを押さえて言った。
「え？お前の初リーダー任務の祝い」
なのに
ソイツはそんな俺を意外そうな顔で見返し、間の抜けた声で聞き返して来た。
「だーかーらー！！それで、何で勝手に俺の部屋に入り込んで寛いでんだよッ！！」
部屋に転がるスナックのカスと、無駄に積み重ねられたエロ本を指差し
俺は血管がブチ切れそうな勢いで怒鳴る。
けれど、そんな俺にお構いなしにソイツはまた新しいスナックの袋を開けた。
最近新調したばかりのベッドに、ボロボロと零れて行く食べカス…
「お前の部屋って、クソつまんねぇなぁ。エロ本一つも無いなんてイカれてるぞ」
「………」
イカれてるのはお前の常識だよ…ッ。
……なんて思いながらも、腐れ縁の親友であるソイツへ怒るに怒れず、その無残に散らかされた部屋をすごすごと片付け始める。
けれど…
「なぁ！任務の成功の無事を祈って、タロットで占ってやるよ！！」
エロ本の近くに無数に散らばった 丸まったティッシュを見つけ軽い殺意を覚えた。
「要らん」
「いやぁ～、最近道端でタロット占いしてるベッピンの姉さんを見つけちゃってさぁ～～、毎日ソコに通い始めてる内にオレもその魅力に…」
「出てけ」
鼻の下を猿みたいに伸ばしデレデレと無意味な事を話す親友を 俺は部屋から追い出そうとそのケツを蹴る。
…が、
「よし、好きなカードを1枚引け！」
……全然、聞く耳をもたないバカ野郎。
「……引いたら出てけよ」
脅しをかけてギロッと睨んでやったのに、ソイツは全然気にする風もなくて…
「分かった分かった！だから、早く引けって」
何故かルンルンで催促してくる。
…絶対、分かってねぇな…
そんな事を思いながら、一応目の前に差し出されたカードの束から一枚を引いた。
すると
「おお…ジョーカーだな」
引いたカードを俺の手から奪い取り、ソイツは微妙な反応をした。
「…わ…悪いのか？」
その反応に、何だか少し不安になって聞いてしまった。
「いや…どっちでもない」
「はぁ？？」
その曖昧な返答に、俺は頓狂な声を発した。
だから、ハッキリしないソイツに痺れを切らして
その手からカードを奪い返して絵柄を確かめてみた。
それは、絶壁の崖の上に立っている若い男の旅人と犬の絵だった。
もちろん、その絵柄の意味が分からない俺は…ただ怪訝に眉を寄せる。
「別名“愚者”のカードだ」
そんな俺に、ソイツは言った。
「愚者？」
「その絵の中の人…と犬、崖のフチに立ってんだろ？
それは“自分の目の前に崖が迫っている事にまだ気付いてない”って、意味なんだ」
「…要するに？」
「崖から落ちるか、踏み止どまるかは旅人次第」
「……ふーん…」
「あ゛ッ！！お前、大事なカードに何す…ッ！！？」
気抜けた返事をしながらカードをビリビリに破った俺に、ソイツは情けない声をあげた。
「バカバカしい…ッ」
「あぁ～～！ミーナ姉さんから貰った俺のカードがぁぁぁ！！」
涙声でその破片を広い集めるソイツを鼻で笑い、俺は立ち上がる。
「そんな“子供騙し”で、俺の人生が左右されてたまるかよ」
吐き捨てるようにそう言って、俺はテーブルの上に置いてあった銃をベルトに挟める。
「絶対にこの任務を成功させてやる…ッ」
自分自身に言い聞かせるようにそう呟いて、その右手をグッと握り締めた。
「……あ、そういやターゲットの顔写真見たか？超ベッピンだって、皆騒いでたぞ」
意気込む俺の意思を挫くかのように、目に溜まった涙を拭きながら言うソイツに…
「関係ねぇよ、そんな事」
俺は“大人の男”らしく、フッと鼻で笑ってやった。
「写真、見てないのか？」
そう答えた俺に、ソイツは意外そうに問い返してきた。
「必要ないだろ」
「何で？」
その言葉に、俺は口端をフッと歪めた。
…無事に、格好良く笑えたか分からなかったが。
「死んでく奴の顔なんて、覚える必要ないだろ」
それが例え、どんな女なのだろうと──…
そう
ゲームはまだ始まったばかり
なのだから──…
「でも、マジで超可愛いらしいぞ」
「………」
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