10 バタン、と扉が音を立てて閉まる。 スズネを連れて、サロンに姿を消したアダム…不意に、人の気配の‘温もり’が消えた気がした。 そして より一層の暗闇が、一人残されたカオリを包んでいく。 “愛されてるな” 先程、自分が零した言葉が、激しくなる雨音に跳ね返されて舞い戻ってきた気がした。 『お前を愛してくれる奴など、この世のどこにも存在しない』 彼女の顔を照らし出すのは、闇夜をつんざく雷光。 すると 不意に彼女は、鈍い痛みを下腹部に感じそっと手をやる。 「……チッ」 …彼女の一番大嫌いな現象だった。 激しくなって行く雨音と共に、シクシク痛む下腹部…そして、それは彼女の心をも同時に重くさせる。 「…だる…」 激しくなる雨音を嫌うように壁に背を預け……カオリはその瞳をゆっくりと閉じる。 額には、鈍痛からくる脂汗が光っていた。 「……」 扉から入り込んでくる湿気を含んだ生暖かい風が、血で塗れた体を気持ち悪く包む。 彼女は気怠い呼吸を繰り返し、薄目を開けた。 そして、その漆黒の瞳に映ったのは…永遠に続くのかと錯覚さえ覚える長い螺旋階段。 それは、永遠のループ。 どこまでも天に向かって続くかに見えるその螺旋階段を見つめながら、彼女が次に吐いた言葉は “溜め息” と言う憂鬱に他ならなかった──… [*前へ] [戻る] |