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「シェイル=アスコット・リーゼ伯爵からの伝言です。

“我が城の姫を助けて下さるなら、一度だけアスコット家の名を使用する許可を与える”…と」



スズネのその言葉には、流石のカオリも少し目を見開いて驚いた。





「オイ…それどういう意味だか分かってて、ホントに言ってんのか?」




「ええ、もちろんです」


カオリを見つめ返すスズネの瞳には、戸惑いや迷いの色がない。





「それは、例えば“人殺し”と言う大罪を…アスコット家の‘名の下に’起こす可能性もあると言う事だぞ」



…何だか妙に、スズネの強い瞳が気に入らなかった。



だから、カオリは敢えてオブラートに包まず単刀直入に告げた。





「もちろん、承知の上です」




「“後からやっぱ無し”とかは、受け付けないぞ?」


視線を険しくして念を押したカオリにも、スズネは黙って頷く。


そんな彼女の様子を見て、カオリは気怠そうに溜め息を吐いた。





…悪い条件ではない。






だが


「面倒だな」

相手がそこまでコチラに歩を譲る覚悟だと聞いた途端、何だか拍子抜けした。





‘遊び’は、歯向かう相手がいてこそ楽しめるもの。



…刺激と張り合いがない遊びなんてゴメンだ。






「由緒正しきアスコット家様の名声が、地に墜ちる事になるかもしれないが構わないのか?」


皮肉をたっぷり込めて、カオリは今一度問うた。




けれど、正直その話題にはもう興味をなくしていて…風でキィキィと、不気味な音を立てて揺れる玄関のドアを眺めていた。



そう言えば、雨が降っていたっけ。







すると

「カオリ=ローゼン・クロイツ様」


不意にすごく近距離で聞こえたその声に、少しハッとして視線を戻すと……強い瞳の彼女がすぐ目の前にいた。






「シェイル様は仰りました。
“エリゼの身が無事なら、アスコット家の名に傷がつくくらい‘大した事’はない”と──…」


強い雨音にもかき消されない清廉な彼女の声が、クロイツ家の退廃的な闇に亀裂をいれる。




遠くの方で、ゴロゴロとなる雷の音がした。


騒がしい外界とは反対に、その城の中には不気味な静寂が漂う。




「そうか」


暫しの沈黙の後、不意に呟いたカオリの言葉がホールに響く。


彼女は、俯いていた。







そして





「愛されてるんだな」


どこか自嘲めいたその言葉は、轟いた雷鳴の音と重なる。




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あきゅろす。
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