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「アダム」




「はい」



暫く、その行為を無言で受けていたアダムだったが…不意に呼ばれたその名前には、すかさず返事をした。



ついでに、不快さに閉じていた瞳をそっと開けると、目の前にはコチラをじっと見つめてくるカオリの姿。







「さっき、刺客にも気付かないくらい…何を考えていた」


頬に添えられたダガーの刃が、グッと鋭角に突き刺さって来た。



その瞳には、深い疑いの色が宿されていた。






「貴女様の事です」


アダムは澱みなく答える。





だが



「本当か?」


“疑う”事を第一として身につけて生きてきた彼女は、そんな容易に人の言葉を信じない。






「カオリ様が無茶なさるのを、どう止めようか悩んでおりました」




「どっちにしろ不愉快だな」



頬に当てられたダガーにグッと力が入り、ツ...と流れ落ちたのは一筋の血の流れ。






けれど、やはり彼は何の抵抗もしない。








「誓え」


カオリは言う。

その瞳は、凍てつく様に冷たい。



信頼や希望などと言った言葉は、とうの昔に葬り去った。







「“血の刻印”に誓え」


そう言って、赤いYシャツの襟元を引っ張る。





そこには……黒い双頭を持ち、髭と尻尾が蛇と化したギリシャ神話の忌まわしき獣の姿。

地獄の番犬、ケルベロスを兄に持つ“オルトロス”の焼印である。



そして、それはクロイツ家当主の証である“彼女の刻印”でもあった。






「御意」


そこに、アダムはそっと唇を近付ける。





そして…噛み付く様に口づけて、その焼印に忠誠を誓う。






チリッと焦げ付くような淡い痛みに、カオリは眉をひそめる。







…いつもこの瞬間が嫌いだ。




自分の内側から沸き上がってくる 得体の知れないモノ。


それは、きっと偽りの自分。





“男”として生まれ得なかった後悔と絶望が詰まった 偽りの自分。




自分の本来の姿は、“コレ”でいいハズなのに──…










「…もういい」


首筋にかかる痛みに限界になり、カオリはアダムの体をそっと押し退けた。





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あきゅろす。
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