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「全く…グラスくらい、私がココにいるんですから渡して下さいよ」


「あー、ウルサイウルサイ。お前は、すっかり家老のジジイみたいな口ウルサさになって来たぞ」



「好きに言って下さい。カオリ様が、手をわずらわせるからこうして口ウルサクもなるんです」


減らず口が減らないのは、一体どちらなのか……

繰り返される他愛もない小言の言い合いに穏やかな時間を感じながら、アダムはベッドに転がる空のグラスを取ろうと手を伸ばした。



カオリの顔の横に手を置き、その身体に覆い被さる状態でベッドの後方に投げられたグラスを取ろうとするアダム。


彼の鍛えられたしなやかな身体の重みで、手をついた側のベッドが少しだけヘコム

白いシーツの下でわずかに鳴るスプリングの音に、カオリは閉じていた瞳をうっすらと開いた。



そして、目の前にアダムのたくましい胸元と耳の横でチャラチャラと揺れ、燭台の炎の灯を受けてわずかに光ったモノクルムのチェーンが目に入った。





「……っ」


その目に受けた刺激に、カオリは思わずそれに手を伸ばし乱暴に彼から剥ぎ取った。

まるで、赤子が目に入り気になったものに手を伸ばすように…素直な本能に従った行動だった。



しかし、自分の日常生活を支える上で最早必要不可欠となった代物を奪われた事に、アダムは小さく困り果てる。


こう言ったカオリの子供染みた反応や行動も、今ではもうすっかり慣れっこだったが……その分、彼の胸を静かに焦がす。




「あなたは、どこか子供時代にすべき大切なモノたちをなくして来たのですね」


頭の中に銀色の姫君の天真爛漫な姿が思い浮かび、その時に出会った全く対照的な寂しげな少女の姿も同時に思い出す。


その時から、自分は闇に囚われていた。

子供らしい態度も思考も許されず、常に大人より上で大人より勝る事を強いたげられてきた少女。


子供の純真さや無邪気な遊びなどと言った 人間誰しもが歩んでいく大人への軌跡の時間がぽっかり抜けてしまった少女。




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あきゅろす。
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