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耳障りだ。



カオリは最大限に蛇口を捻る。全身に当たる痛い程の水の強さに、呼吸が苦しくなるがそのウルサさは、決して耳障りではなかった。



やっと、自分一人になれたその空間…しかし、水のベールに包まれたそこは長くは持たない。





「……」


まるで人をおちょくっているかのように、当然ピタリと止まる水。

そして、次にはどこかでゴォゴォと地鳴りのような音がする事に、ついにどこかの水道パイプが破裂したのだと悟る。



自分にはシャワーを浴びる時間さえ与えぬと言う事か…

そんな神か悪魔か、意地の悪い何者かの意思を感じカオリは諦めてシャワーのノズルを元の位置にかけた。




「アダム、ボロシャワーが壊れた。直しておけ」

そうしてまだその顔も見ぬ内に、扉の向こうにいるハズのアダムに声を掛けた。


そして、バスルームから直続きの寝室に戻る為、長い髪の毛が含んだ大量の水を絞り落とす。

バチャバチャと音を立てて、床に溜まる水滴にカオリは舌打ちをした。



「…勘弁しろよ、排水溝まで壊れてんのかよ」

そう嘆いて、水捌けの悪い床に足をとられないように幾分気を払いながら、寝室に続く扉へ近づく。



「アダム、排水溝もぶっ壊れた」

扉の前でふるふると頭を振ってキモチ程度に水気を飛ばしながら、また扉の向こうにいるアダムに話しかけた。



「…返事くらいしろよ」

だが、その気配とわずかな身動ぎの音はするものの、自分の言葉に返答を返してこないアダムにカオリはそうごちる。



全く、どいつもこいつも……

そう溜め息を吐きながら、体を隠す事もせず堂々と扉に真向かいに立ったままそのドアノブに手を置いた。



激しいドシャ降りの音はまだ聞こえていたが、さっきまでそれ以上に激しく降り注いでいた浴室内のシャワー音が無くなった為か

少しの物音さえもヤケに耳に届くようになった。


ドアノブを掴んだカオリの手から、一滴の滴がポタリと落ちる。
そして、浅い水溜まりを作ったその床にポチャンと透明な響きをたてて波紋を起こした。





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