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「アイツらもしつこいな」


誰に言うでも無く、彼女は呟いた。



しかし

生き物の気配一つしない閑散としたホールに、その声は嫌でも響く。






「恐らく、貴女様が“生きてる限り”一生続きますよ」


出来るだけ声音を変えずに、アダムは答えた。




「知ってるさ、そんな事。アイツらはオレの存在が鬱陶しいんだ。

異国人の妾の子でありながら、遺言書により跡を継いだオレが…さ」


事実を再確認する様に低くそう呟いて、クロイツ家の前当主が描かれたその絵画を見つめる。





彼女の父親は、日本人の女を愛した。


そして

本妻との間に二人の息子がいるのにも関わらず、名もなき妾の子であった彼女……カオリを、次期ローゼン・クロイツ家の跡取りと成した。



それは、遺言書が効力を発した“あの日”から始まり…その日から、彼女は当主の座を狙う義兄達に命を狙われる日々に陥ったのである。







「まぁ、退屈しなくてイイんだけどな」





「そう仰ると思いましたよ」





そして


また、彼も“あの日”から彼女に運命を捧げた…

一人の生贄(スケープゴート)であった──…。






「…で、カオリ様」




「あ?」





「シャワー浴びていらっしゃるのでは、無かったんですか」





「ああ…忘れてた」


潔癖症な彼の急かした言い草に、カオリは面倒臭そうに答えた。


そして案の定…その血に濡れた手袋を、いそいそとスペアのものに付け替えている彼を見て顔を引きつらせる。






「そんなに神経質だと早死にするぞ」




「カオリ様がズボラすぎるんです」





「へぇ、結構な口を叩くじゃねぇか。下僕のくせに…ああ?」



眉間にシワを寄せそう言いながら、アダムの頬をその血に塗れたダガーでピシピシ叩く。






「……カオリ様、本当に早くシャワーを浴びてきて下さい」


そのなまぐさい鉄の香りに眉をひそめながら、アダムは言う。

頬に付着するまだ生温い血が、不快で堪らなかった。





「ああ、このダガーをキレイに“拭き取って”からな」


そんな彼の心情を理解しているからこそ、カオリは意地悪くその血を擦りつける手を止めない。



もちろん、従順な下僕である彼がそれに歯向かうなどあるハズもなかった。





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