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 赤也はかわいい?
「はあ〜…」
「どうした、ため息なんか吐いて。何かあったのか?」
「ジャッカル…」
 一限後の休み時間、隣のジャッカルが軽い口調で訊いた。
 赤也は国語の教科書をしまいもせずぼんやりと黒板を眺めて居た。日直の男子生徒が黒板消しを掛けて居る。
「おれってかわいい?」
「はあ!?」
 赤也の言葉に周りの男子生徒は一斉に耳を傾けた。
 赤也は然う訊いた物の、弦一郎が狂う程、赤也は可愛い。健全な男子が放って置く筈が無いのだ。
「どー思う?」
「どうって…」
「かわいく無い?」
 頬を染め瞳を潤ませた赤也に、ジャッカルは答えを躊躇った。傍目から見れば告白現場のようにも見える。
「ま、まあ可愛いんじゃねえのか?」
「…“まあ”かわいい?」
「…すっごく可愛い」
 赤也の顔が明るくなった。
「やっぱりそー思うっすよね!」
 笑顔の赤也を見て、耳をそばだてて居た男子はジャッカルに嫉妬心を燃やした。
「でもジャッカルに言われても嬉しくないしな…」
「そ、そうか…」
「みんなそー思うかな?先輩とか…」
「難しい質問だな。人には好みがあるし」
 赤也の華麗な蹴りが炸裂した。スカートの中のブルマが丸見えになって、少年らは頬を染める。
 ジャッカルは強烈な蹴りを喰らって仰け反ってる。
「バカーっ!」
「バカって………」
「どーしたらかわいくなれるのっ」
「知るかよ!俺じゃ無くてお前が気になってる奴に直接訊いたらどうなんだ?」
「べっべべ別に、しゅ、すきな人なんか居ないっつーの!!」
「先輩か…?」
「バカー!!!」
 赤也の蹴りが閃いて、チャイムが鳴った。

+++

 昼休みになるなり、赤也は仁王の教室に駆け付けた。
「仁王先輩っ!」
「おーどうした赤也、息きらして。そんなに俺に会いたかったんか?」
 ヨシヨシと仁王は赤也の頭を嬉しそうに撫でるが、赤也の視線は仁王の隣、“参謀”に釘付けだった。
 参謀は流れるような動作で教科書とノートをしまう。只其れだけなのに、赤也の目はハートになった。
「ん?赤也…目がハートになっちょるよ」
「ふえ?」
 参謀は机を片付けるとさっさと出て行ってしまった。

 仁王の机に椅子をくっ付け、二人はお弁当を拡げた。
「はあ〜…」
 赤也はため息ばかり吐く。
「どうしたんじゃ、赤也。悩み事か?憂いを秘めた顔も色っぽいけど、いつもの明るい顔のが可愛いぜよ」
「かわいい…?」
 コトリ、と赤也は箸を置いた。
「サンボーさんもそー思ってくれるっすか?」
「おうおう、きっと参謀も赤也のこと可愛いって……………え?」
 赤也の頬がポッと染まる。仁王は首を傾げる。
「あ、赤也ちゃん、今、なんて?」
 赤也は赤い顔を背けた。こんな赤也の態度を見れば、誰しも赤也の仄かな恋心に気付く。
「赤也は参謀が好きなんか…」
「ナイショっすよ!」
 二人の箸は進まない。暫しの沈黙が続いた。
 オッホンと仁王がわざとらしく咳払いをする。
「参謀のどこが良いんじゃ?」
「えっと…カッコイイところ…声が優しいし…」
「もっと美声のイケメンが目の前におると思わん?」
「え!どこに!?」
 ごく自然に赤也は驚いた。仁王は項垂れる。
「ねえねえ、そんな事より、サンボーさんの事教えて欲しいっす!」
「そ、そんな事…!…失恋男に構うんじゃなか!」
 伸びて来た赤也の腕を仁王はやんわり拒んだ。
「シツレンオトコって??」
「赤也の純粋さに生傷をえぐられてる男の事じゃ」
「へ?おれなんかしました?」
「もうええよ…」

+++

 放課後、赤也は駅前の花屋に来た。
「こんにちは、赤也。何か見に来たのかい?」
 迎えてくれた幸村の言葉に、赤也は首を振った。
 客足の少ないこの時間の、赤也は常連になって居た。
 幸村はレジカウンターに身を乗り出して赤也と話す。
「おれってかわいいのかな?」
「え?」
 幸村の端正な顔が物も言わず、赤也をじっと見詰めた。
「なんすか…じっと見つめて…」
 こんな美形に熱く見詰められれば、当然、赤也の頬は染まる。
「いや、なんでも無いよ」
 何となく気まずい沈黙が流れ、幸村は目を逸らした。
「どうしてそんな事訊いたの?」
「…歳上の人から見て、どう見えるかな〜って思ったんす」
 赤也は恥じらい乍ら答えた。その様子を見て、幸村には少女の秘め事が解った。
「赤也は、好きな人が出来たんだね」
 途端に赤也の顔が燃え上がる。
「ち、ちがっ!いるわけねえし!」
「歳上の人なんだ」
 今度は赤也の顔から湯気が出た。
「赤也は可愛いなあ。俺に何でも相談してよ」
「ばかっ!知らないっす!」
 真っ赤な顔に恥ずかしがって涙を浮かべた赤也は乱暴に鞄を引っ掴んで、店を飛び出した。


あきゅろす。
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